「遠野さん、前に」
「あ、はい」

 友達とお喋りしていたら先生に名前を呼ばれたのは、それからだいぶ経った、ある日の朝会のことだ。お喋りしていた友達も私も表情をなくす。怒られるのかとビクビクしていたけれど先生はにこにこと笑っていた。

「夏休みの宿題で出した小説コンテストですが、見事に遠野さんが受賞しました。おめでとう!」
「え?」

 ポカンとして先生を見上げてしまったのは、自分がそんなものを書いたことすら忘れていたから。クラスメイトからは「りかちゃんすごーい」とか「まじかよ」とか、色々な声が聞こえてきた。

「頑張ったな。おめでとう」

 にこにこした先生から渡された厚紙には『表彰状』と『小学生の部 努力賞 遠野梨花』と書かれていた。

 家に帰ってから夕食のときにそのことを話すと、お父さんとお母さんは大喜びした。『努力賞』はそのコンテストの賞の中では一番下の位置付けだった。盾もなければ商品の図書カードもない。ましてや、何かの本に載るわけでもない。もらえるのはたった一枚の印刷した賞状だけ。あとは、主催した出版社のホームページにひっそりと名前が載り、作品が閲覧できるようになっていた。
 それなのに、お母さんってばお祖父ちゃんとお祖母ちゃんにまで「うちの梨花が……」と電話して。親バカ全開で「全作品の中で絶対に一番面白い」と何回も繰り返し言った。
 すごく恥ずかしかったけど、こんなふうに褒められたことはほとんど記憶にないので、同時にとても誇らしくもあった。