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 あれは小学校六年生の頃だった。
 通っていた小学校の先生の思い付きなのか、夏休みの読書感想文の代わりに、『とある出版社がやっている学生向けの短編小説賞への応募作品を書くこと』という課題が出た。規定は『二千字以上、五千字以内の短編小説』というたったそれだけ。けれど、当時の私にはとてつもなく膨大な文量かつ難題に思えたのを憶えている。

「なんにしようかなー」

 始業式を週明けに控え、冷凍庫から取ってきたアイス片手に独りごちるけどアイデアなんて浮かばない。夏休みも残り三日をきっているのに、この宿題だけが残っていた。やったら『○』をつける宿題達成一覧表に、一ヶ所だけ残った空欄。

(あーあ、こんなときにドラえもんが現れて助けてくれたらいいのに……)

 そんなことを思っていたら、ふと閃いた。
 もしも私だけの特別な魔法使いがいたら、どんなに素敵だろうと。

 そこからは次々にアイデアが沸いた。
 主人公は自分と同じ小学六年生の女の子にしよう。魔法使いはちょっとドジな眼鏡っこにしよう。ドジだから魔法の箒から落ちちゃったところから話はスタート。助けたお礼に魔法で困り事を解決して貰ったはずが、ドジな魔法使いのせいでトラブルが次々と起こって──。
 夢中で書き進めて、気がついたときには規定の五千文字ぎりぎりになっていた。
 夏休みが明けて蓋を開けてみれば、その宿題をきちんと提出できたクラスメイトはクラスの半分くらいしかいなかった。だから、自分はちゃんと宿題を全部終わらせることができて、ホッとした。