「薙刀 銘 備前国長船住人長光造は、鎌倉時代に製作された、国宝でもある貴重な薙刀(なぎなた)なのですよ」

「え……っ、こ、国宝⁉」

「ええ。その薙刀の付喪神が率いる御一行様が、数十年に一度の周期で、ここつくもに泊まりにくるのですが……。それがまさに先ほどご連絡をいただきまして、来週末にいらっしゃることになったのです」

 黒桜はニッコリと笑って答えたが、花は「そうなんですね!」と軽々しい返事はできなかった。
 名前だけでもすごいとは思ったが、まさか国宝だとは夢にも思わなかったのだ。
 たった今、黒桜は鎌倉時代に作られたものだと言ったが、それは何百年前のことなのかと花は首をひねって考えた。
 
(ダメだ。とにかく、すごいということしかわからない……)

 国宝に指定されるほどのものなら、歴史的価値は計り知れないに違いない。
 そもそも国宝と呼ばれるものを実際に見たことのない花は、まさかここ、つくもで初めて巡り合うことになるとは思わなかった。

「御一行を率いてくるのは薙刀の付喪神、薙光(なぎみつ)殿です。薙光殿は姿・作柄ともに美しく、地刃の出来が優れた薙刀なんですよ」

 やけに刀に詳しいらしい黒桜は、意気揚々と花に説明をしてくれる。

「薙光殿の器である薙刀は、実戦で使われた消耗品であるにも関わらず保存状態が非常に良く……。そもそも鎌倉時代の薙刀については現存すること自体が貴重ということで、本当に奇跡の薙刀と言っても過言ではありません」

「へ、へぇ〜」

「そんな薙光殿が率いる御一行は、普段は熱海の隣の隣の市町村の、とある美術館にお勤めされているのです。薙光殿以外のみなさんも、それぞれ国の重要文化財だったりと、名だたる名刀ばかりなのですが……。まぁ、つまるところ、御一行のみなさんは、同じ美術館で働く同僚関係ということですね」

 何故か嬉々とした表情を浮かべた黒桜の説明に関して、花は半分以上がちんぷんかんぷんだったが、とにかくすごい付喪神御一行様だということだけは理解した。