それから私たち三人はお父さんの車に乗り、蓮の入院している病院を目指す。

車中での会話は和やかで、私もそうだが、お父さんとお母さんの顔つきもどことなく晴れやかに思えた。

夏は冬に比べると、だいぶ日没は遅い。

けれど私たちが病院へ到着した十九時過ぎには、もう辺りは真っ暗になっていて。空を見上げると、暗闇の中に無数の星が瞬いている。

ここの病院はセキュリティ面が強化されていて、患者家族は病棟の入口の前でインターホンを押してまず看護師を呼ばなければいけない。さらに蓮の入院している病棟は乳児から十八歳までの子どもがいる小児病棟のため、感染対策も厳しく、看護師が持ってきてくれた簡単な問診カードへの記入と、体温測定が求められる。

私たち家族はそれを終えて、ようやく病棟に入ることができるのだ。

お母さんは昨夜から一日付き添いをしていたこともあり、蓮の病室の場所を知っていた。だから私とお父さんは、お母さんの後を追い、蓮の病室へ向かう。

今回の蓮は個室に入室しているらしく、病室前の名前の札の欄には、〝吉末蓮〟と表記されている。

「蓮、入るわよ」

コンコンとお母さんがドアをノックした後、三人で顔を覗かせると、蓮はぱあっと目を輝かせた。

「お父さんにお母さん。それに、お姉ちゃんもきてくれたんだ!」

そう言って、とても嬉しそうに笑う蓮。小さな右手の手背には点滴の針が刺さっていて、シーネというものと包帯で針が抜けないように固定されている。

蓮の表情は、治療の甲斐もあってか昨日とは打って変わって違うのに、その右手を見るとやっぱり痛々しく思えて胸が苦しい。

けれど、蓮は私がそんなことを考えているとは知らないのだろう。よっぽど家族に会えたのが嬉しいのか、私たちに無邪気な笑顔を向け、嬉しさを全面に表している。

……可愛いなあ。

我が弟を眺めている自分の頰が、思わず緩んでいくのが分かった。

「お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、ここに一緒に座ろうよ」

立ちっぱなしでいた私たちを見て蓮が指差したのは、自分のベッドの上。

でも、蓮の使用しているベッドは小児用のサークルベッドといって、小さな子が動いてベッドから落ちてしまわないようにカラフルな柵で四方八方から覆われている。

だから座るといっても、この柵を下ろさないことにはどうしようもできない。これって、どうやって下ろすんだろうと方法を探るために柵に手を伸ばそうとした、その時。

「じゃあこれを下げてみんなで一緒に座ろうね」と、私よりも先に柵に触れたのはお母さんだった。

そうか、お母さんならいつも蓮の付き添い入院をしているし、柵の下ろし方も看護師さんの方から説明を受けているはずだ。

「……さあ、私たちもここに座らせてもらいましょう」

お母さんは手際よく柵を下げると、蓮や私を見てやんわりと笑う。