もしかして洋介もそのことを知らなかったんだろうか?
 腰から力が抜けて、思わずその場に崩れ落ちそうになってしまった。
「よ、よかった……。自分のせいで植物レストランがなくなったらどうなるかと……」
「バカだな、ほんと」
「よかった。バカでも本当によかった……。草壁さん、さっきは本当にありがとうございました!」
 満面の笑みでそうお礼を伝えると、草壁さんはじっと私を見たまま固まった。
 どうしたんだろう……?
 私も思わず立ち止まって見上げると、草壁さんはなにか考え込んだ顔で私を見つめている。それから、ぼそっとひとりごとのようにつぶやいた。
「お前のことただの部下って言うのは、もう嘘になるかもな」
「え? それってどういう……」
 突拍子もない発言に、どきりとしてしまう。
「ただの部下の一個上の、危なっかしくてほっとけない部下って感じだな」
「ほっとけない部下……」
 想像とは違う、まったく色気のない返しに、私は少しがっかりした。
 無駄にドキドキしてしまった自分が少し恥ずかしくなる。
 そんな私に向かって、草壁さんは流れるようにある提案をしてきた。
「あとさ、一個提案なんだけど、毎週好きなだけ食べていいから、お店手伝ってくんない? 仕込みや深夜の時間帯は時給出すからさ」
「え……」
「最近ちょこちょこ客が増えて忙しくなっていたからな。まぁ、食べる専門でいたいなら別にいいけど」
 願ってもいない提案に、私は勢いよく手を挙げて答える。
「やります! いいんですか? 草壁さんの料理美味しいから、すごくたくさん食べちゃいますけど……」
「はは、今さらなに遠慮してんだ」
 そう笑って、草壁さんは植物レストランのドアの前に立った。
 私、正式にあの植物レストランの一員になれるんだ。
 心から認めてもらえた気がして、胸の真ん中が晴れ渡るように明るくなっていく。
 草壁さんは、鍵を開けて、プレートをサッと裏返して『開店中』にする。
 それから、いつも通りクールな表情で、私を呼んだ。