草壁さんの瞳がどんどん冷たくなって、洋介の手首を掴む力も強くなっていく。
　草壁さんは少しだけ語気を強めて、吐き出すように洋介に言葉をぶつけた。
「花井は、お前みたいにペラペラな人間関係築いてねぇんだよ。分かったら二度と近づくな」
　……ずっと、ずっと自分の居場所がほしかった。
　要領が悪くて、個性もなにもない私を、誰かに見つけてほしかった。
　誰かにとっての、大切な人に、なってみたかった。
　さっきの草壁さんの言葉が、今になって胸に沁みる。
　『花井は大事な客だからな』
　自分が傷ついたときに、真剣に怒って守ってくれる人がいるだけで、こんなにも世界が温かく見えるなんて、知らなかった。
　私の孤独はもう、どこか遠い場所へ飛んでいったよ。
　草壁さんと、植物レストランのおかげで。
「あと、花井に業務妨害したことは人事にも伝えておくからな。次の異動楽しみに待っとけよ」
　最後にそう言い放つと、草壁さんは顔面蒼白の洋介を突き放した。
　草壁さんは戸惑う私を引き連れて、「行くぞ」と低い声で言って腕を掴んだ。このままお店に戻る様子だ。
　私は、手を引かれながら一瞬だけ洋介の顔を見た。
　洋介は、ただただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
　
　草壁さんに手を引かれながら、植物レストランに戻ると、お客さんが三人ドアの前で待っている様子が見えた。
　ドアの前にいたのは、葵さんに萼さんと芽依さんという、いつものメンバーだった。
　私たちに一番に気づいたのは芽依さんで、見つけた瞬間不快そうに眉根を寄せた。
「なんで一緒にいるの……爽君と」
「あー！　菜乃ちゃんと爽君、待ちくたびれたよ」
　不機嫌そうな芽依さんとは対照的に、葵さんが元気よく手を振ってくれた。萼さんはそのうしろでタバコを蒸かしている。
　私はさっきまで目に溜まっていた涙を拭い取って、笑顔で手を振り返す。
　隣で草壁さんが、面倒そうにつぶやいた。
「はぁ、芽依と萼が一緒にいると、店荒れるんだよな……」
「草壁さん、今日は本当にありがとうございました。もし洋介が逆上してお店のことバラしたりしたら、本当にすみません……」
「お前さ、うちの会社が申請すれば副業OKになったこと知らねぇのか？」
「え……ええ?」
「ちゃんと社内報読めよな。だからそんなに焦ってたのか」
　な、なんだ……。