「おい、急に呼び出してなんだよ。答えまとまったのか」
 カーテンも締め切られ、薄暗い会議室で私はキッと洋介を見上げる。
 大丈夫。ちゃんと伝えれば、洋介も人間だから分かってくれるはず。
「洋介、私洋介とはヨリ戻さない。もう付き合えない」
「……は?」
 若干空気がピリついて、私は肩をビクつかせた。
 私のことを突き刺すような視線に言葉が出てこなくなり、沈黙が生まれてしまう。
「洋介の隣は、もう私の居場所じゃないの。安らげないの」
「なに? じゃあ草壁さんのことバラしていいんだ」
「それもダメ!」
 珍しく声を荒げた私に、洋介は一瞬驚いた様子だった。
 しかし、すぐに眉を顰めて、不機嫌そうに私に詰め寄る。
「なめてんの? お前営業なのに全然交渉できてねぇじゃん」
「一瞬本気で、会社を辞めようとさえ思った」
「え……」
「でもそれも嫌だ。だって今朝、久々に仕事が楽しいって、思っちゃったから……。気づいちゃった。案外まだこの会社でやりたいことがあるんだってこと」
 泣きそうな声でそう言うと、意外にも洋介は動揺しきった顔をしていた。……というよりも、心底傷ついた顔をしている。
 どうしてそんな顔をするのか、私には理解できない。
 洋介は私を壁に追いやり、苦しそうに声を絞り出す。
「そんなに嫌かよ。俺と付き合うことが……」
「洋介こそ、私なんかになんでそんなに執着するの。一緒にいてそんなに楽しくなかったでしょう。私、後半はただの頷き人形だったし」
「お前が決めつけんなっ」
 今度は洋介が声を荒げたので、私は思わず体を硬直させる。
 洋介の手が自分の耳の真横にあって、これがいわゆる壁ドンなのかと一瞬考えたけれど、すぐに今はそんな場合じゃないと思い出した。
「お前は……、なんでいつもそうやって、勝手に決めるんだよ」
「え……?」
 なにを言ってるんだろう。いつも勝手に決めていたのは洋介の方なのに。
 居酒屋のメニューも、デートの日も、別れることも。
 なにを言われているのか分からなくて、私は頭の上にハテナマークを浮かべてしまった。
「分かった。じゃあ、俺と付き合わなくてもいいから、来週から一切草壁さんと関わるな」
「な、なにそれ……。お店にも行くなってこと……?」
「じゃないとバラす。いいな?」
「なんでそんなこと、洋介は望むの?」