タイミング悪いよ。こんなの、嬉しくなってしまうに決まってるじゃん。
「まだ辞めたくない……」
小さく呟いた声は、社内アナウンスであっという間に掻き消されてしまった。
なにも諦めきれない気持ちのまま出社し、あっという間に昼休憩になった。
いつもは三人前は頼むのに、今日は天丼一人前しか食べられる気がしない。
日替わり定食の鶏天丼を注文し、いつも通り端っこの席に座った。
熱々の鶏天を箸でつまみ持ち上げる。衣の周りにはご飯が少し張り付ている。それをゆっくり口に運ぶと、鶏肉の油と弾力が口の中に広がって、すぐに白米をかきこまずにはいられなかった。
よかった。ちゃんとご飯の味はする。
そんな当たり前のことにほっとしていると、すでに食事を終えた様子の草壁さんが目の前を通り過ぎようとした。
「おい、花井」
「あっ、草壁さん」
私を見て立ち止まった草壁さんは、右手にコーヒーを持っている。
草壁さんはしばらくじっと私の顔を見つめて、訝しげに顔を顰めた。
「どうした……天丼一人前だけしか食わずに」
「えへへ……なんか食欲がなくて」
周りの人からしたらいったいどんな会話だと思われるだろう。
しっかり揚げ物と丼ぶり一杯の白米を食べておきながら、食欲がないなんて。
草壁さんに心配をかけたくなくて笑っていると、草壁さんは小声で『今日来るんだろ?』と言ってきた。
今日はいつもなら待ちに待った植物レストランの営業日だ。
だけど、今の状態じゃ行けないよ……。
でも、ありえないけれど、絶対嫌だけど、もし洋介とヨリを戻すことになったら、今日が最後の晩餐になってしまうかもしれない。
私が泣きそうな顔をして黙っていると、草壁さんは強めな口調で言い放った。
「絶対来い」
それだけ言い残して、草壁さんは食堂を去っていく。
私はどうしたらいいのか分からないまま、その背中を見送っていた。
……私、このままじゃダメだ。
ちゃんと洋介と向き合って、一番いい解決法を見つけよう。
そう思い立った私は、メッセージアプリで、洋介を誰もいない会議室に呼び出した。昼休憩は残すところあと二十分。
ふだんあまり使われない会議室で、私は洋介のことを待っていた。
言いたいことを何度も頭の中でまとめて、練習してみる。
ぶつぶつと念仏を唱えていると、洋介が気だるそうな顔で入ってきた。
「まだ辞めたくない……」
小さく呟いた声は、社内アナウンスであっという間に掻き消されてしまった。
なにも諦めきれない気持ちのまま出社し、あっという間に昼休憩になった。
いつもは三人前は頼むのに、今日は天丼一人前しか食べられる気がしない。
日替わり定食の鶏天丼を注文し、いつも通り端っこの席に座った。
熱々の鶏天を箸でつまみ持ち上げる。衣の周りにはご飯が少し張り付ている。それをゆっくり口に運ぶと、鶏肉の油と弾力が口の中に広がって、すぐに白米をかきこまずにはいられなかった。
よかった。ちゃんとご飯の味はする。
そんな当たり前のことにほっとしていると、すでに食事を終えた様子の草壁さんが目の前を通り過ぎようとした。
「おい、花井」
「あっ、草壁さん」
私を見て立ち止まった草壁さんは、右手にコーヒーを持っている。
草壁さんはしばらくじっと私の顔を見つめて、訝しげに顔を顰めた。
「どうした……天丼一人前だけしか食わずに」
「えへへ……なんか食欲がなくて」
周りの人からしたらいったいどんな会話だと思われるだろう。
しっかり揚げ物と丼ぶり一杯の白米を食べておきながら、食欲がないなんて。
草壁さんに心配をかけたくなくて笑っていると、草壁さんは小声で『今日来るんだろ?』と言ってきた。
今日はいつもなら待ちに待った植物レストランの営業日だ。
だけど、今の状態じゃ行けないよ……。
でも、ありえないけれど、絶対嫌だけど、もし洋介とヨリを戻すことになったら、今日が最後の晩餐になってしまうかもしれない。
私が泣きそうな顔をして黙っていると、草壁さんは強めな口調で言い放った。
「絶対来い」
それだけ言い残して、草壁さんは食堂を去っていく。
私はどうしたらいいのか分からないまま、その背中を見送っていた。
……私、このままじゃダメだ。
ちゃんと洋介と向き合って、一番いい解決法を見つけよう。
そう思い立った私は、メッセージアプリで、洋介を誰もいない会議室に呼び出した。昼休憩は残すところあと二十分。
ふだんあまり使われない会議室で、私は洋介のことを待っていた。
言いたいことを何度も頭の中でまとめて、練習してみる。
ぶつぶつと念仏を唱えていると、洋介が気だるそうな顔で入ってきた。