周りの人もちらちらと私たちを見ているので、私はとにかくすぐにこの場から逃げ出したかった。
　私は洋介の顔を一度睨む。洋介は、顔を真っ赤にしながら、悔しそうな顔で私を見つめている。
「“あの草壁さんが気に入った女って聞いたら、花井がいい女に見えてきた”っていう会話聞かされてる俺の身にもなってみろよ……」
「え……？」
「だいたいお前、冗談で言った別れ話、止めずにそのまま受け止めるしよ」
「冗談⁉︎」
　洋介がバカ過ぎて本当に言葉が出てこない。
　私はいったいこの男のどこが良くて付き合ってたんだっけ……。
　一瞬、宇宙空間に飛ばされてしまうほど、途方に暮れた。
　これ以上この男の話を聞く価値はない。うん、ここから離れよう。退散だ。
　そう思って今度こそ洋介を振り切ろうとしたそのとき、グイッと腕を掴まれて、耳元で囁かれた。同時に、ラーメンの熱い汁がこぼれて、手にかかった。
「草壁さんがやってるあの店、副業だよな……？」
「え……」
「会社に報告したら速攻でクビだな、草壁さん」
　まさか、お店のことまで知られていたなんて。
　私は思わず絶句し、洋介の顔を目を見開いたまま見上げる。
　洋介は口元を少し上げて、さらに強気な声で命令した。
「バラされたくなければ、もう一度俺と付き合えよ」
　ドクンドクンと心臓が不穏な音を立てている。
　もしかしたら、私のせいで、皆にとって大切なあの場所が壊されてしまうかもしれない……？
　そんなの、絶対ありえない……。
　だって、植物レストランは、皆にとってのオアシスで、“居場所”なんだ。
「どうする……？」
　洋介の問いかけに、私は死んだような声で「少し考えさせて」と答えることしかできなかったんだ。

第七話　終