長いソファ席なので、つい隣の人を反射的に見てしまうと、なんとそこにいたのは元カレの洋介だった。
 その瞬間私は光の速さで心の中で突っ込んだ。
 いやいるじゃないかここに! 私情で恨みを持っていそうな人!
「なあ、なんで電話何回もしてんのにかけなおさないわけ?」
「え、今私に話しかけてます……?」
「当たり前だろうが」
 目線を合わせないまま、青ざめた顔で問いかけると、洋介の苛立った声が返ってきた。
 なんだよこいつー! もう私になんか構うなよー!
 言葉にはできない叫びを胸の中で何回も唱えてみたが、洋介はこの場から去る様子はない。
「あの、ひとつ聞きたいんですけど、パソコン隠したのあなたですか……」
「そうだよ。社内のパソコントラブル管理してんの今俺だからな。こうでもしないと話せないと思ったのに、お前なんで人事通してんだよ」
「いやいや情報漏洩の可能性の報告するでしょ……。ていうかなに、正気なの? もしかして資料消したのも洋介?」
「そうだよ。パソコンに強い俺のこと頼りにしてくると思ったから」
 呆れて言葉が出てこない。
 まさかそんな理由で私は今日朝からぶっ倒れるくらいの緊張感を味わったというのか。
 洋介は、新卒のときと同じように、今日も前髪をアップにしていて、ツヤツヤとしたおでこが光り輝いている。
 釣り目がちな大きな目と、久々に目が合ってしまった。
「とにかく、もう私には話しかけないでくださいませんか。ご飯まずくなるんで」
 そう言って、席を立とうとしたが、次の瞬間洋介が信じられない言葉を発した。
「お前さあ、実は浮気してたんだろ。草壁さんと仲よさそうに帰ってるとこ、何度も見たぞ」
「は……?」
 いったいなにを言ってるんだろう、この人は。 
 そもそも、洋介から私が嫌になってフッたはずなのに。
 お願いだから、これ以上失望させないでほしい。
「浮気って……、なに言ってんの? 草壁さんに失礼だからやめて!」
「お前ずっとバカにしてたんだろ。上司の悪口言ってる俺を小物だとか思いながら、あの草壁さんと浮気して。くらべてバカにしてたんだろっ」
「ちょっと待って……、洋介ってそんなに卑屈だったっけ……? 頭が追いつかない」
 とんでもない被害妄想に、もう脳が疲れ果てている。