「クソ元彼ごときに言われたクソしょうもないこと、いつまでもクソ引きずってクソ腹空かせてる暇あったら、好きなもの好きなだけ食ってバカなこと考えずに寝ろ」
「く、草壁さん……。クソって言い過ぎ……」
「腹が減ってるとろくなこと考えないからな、人は。人生における食事回数は決まってんだから思う存分食え」
「うう、美味しいですぅ……っ」
 洋介には、食べることしか能がないとまで冗談で言われていた。
 だから、別れてよかった。
 草壁さんが言うように、食べることが生きることなら、洋介は、私の生き方まで否定していたってことなんだ。
 このパスタを食べきったら、今日という厄日を乗り越えられる気がする。
「草壁さん……、ありがとうございます。なんだか、美味しさで、今日のこと忘れられちゃいそうです。あの、代金は……」
 あっという間にパスタを食べ終えた私は、財布をバッグから取り出そうとしたけれど、私はあることを思い出して青ざめた。
「そうだ私、財布を会社に……」
 謝ろうとしている私を見向きもせずに、草壁さんは何かを一瞬考えるような表情をしてから、私の腕を引っ張った。
「えっ、なんですか草壁さ……」
「奥に行こう」
「え、ええ?」
 真剣な表情で強制的に椅子を立たされた私は、心臓がひっくり返りそうになってしまった。
 草壁さんがまさかそんな獣だとは思えない。
 だけど、こんなタイミングでそんな顔で腕を引かれたら……。
「今日、ちょうど枝豆を植えようと思ってたんだ。手伝ってくれ。お代はそれでいい」
「ああ、えだまめ……」
 しかし、あらぬ妄想をしている私の思考をぶった切って、草壁さんは軍手を渡してきた。
 途端にバカな考えをしてしまった自分が恥ずかしくて消えたくなる。
「今植えれば、夏には食べられる。俺は、落ち込んだ時は、土を触ると不思議と心が落ち着いてくるから」
「へぇ……、そういうもんですか」
 乾いた笑みを浮かべる私をよそに、草壁さんはなんだか生き生きとした表情を浮かべている。
 店の奥の扉を開けると、そこには四畳ほどの畑が広がっていた。
 夜の冷たい風が吹き抜け、気持ちいい。
 こんな都会でも、野菜を育てることができるなんて知らなかった。
 ポットに入った苗を草壁さんから受け取ると、すでに土づくりが済まされいるという畑の前にしゃがみこんだ。