そこに炭酸水を注ぎ入れると、庭先で育てていたミントを手の平で叩いてグラスに浮かべる。
「ノンアルモヒートだ。しばらくこれ飲んで我慢しろ」
「うわなにこれ、超お酒飲んでる気分」
 ありがたいことに一緒に私の分も作ってもらったので、早速飲んでみた。
 ミントの爽やか香りとライムの苦みと酸味が合わさって、大人な炭酸水といった感じだ。たしかにお酒を飲んでいるような気分になれる。
 すっきりしたりとした美味しさに浸っていると、萼さんがにこにこしながら話しかけてきた。
「この前、芽依とロビーで会ってたでしょ」
「えっ、見てたんですか⁉︎」
「うん、面白くて遠くで観察してた」
「そんな、言ってくださいよ……」
「もう敵視されたの決定だね。頑張ってー」
 お気楽そうに言う萼さんは、完全に私の状況を楽しんでいる。
 まさかこんなに腹黒い一面があるなんて……。
 少しショックを受けながらも、私は萼さんに問いかけた。
「でも私、草壁さんにどう考えても釣り合う人間レベルじゃないですし、芽依さんが敵視するまでもないと思うんですけど……」
「でも、休日会ってたんでしょ? 芽依はこの店以外で草壁と会ってもらったことないよ」
「いや、あれはでもなりゆきでっ」
「いいじゃん、芽依に嫌われたって生活に支障まったくないでしょ」
 そんな黒いことを言っても、萼さんは相変わらずにこにこしている。
 萼さんは思った以上に癖のある人かもしれない……。
 そう気づいた私は、なにも言い返すことができないままドリンクを口に運んだ。
「誰かに嫌われてもへっちゃらくらいが丁度いいよ。誰かに好かれたいと思うことの方が数倍しんどいから」
「萼さんは誰かに嫌われても平気ですか……?」
「うん、どうでもいいね。ねぇ、草壁もそうだよね?」
 ふいに萼さんが草壁さんに問いかけると、草壁さんは鋭い目つきで「死んでも俺をお前と同じ人間にするな」と即答していた。
 草壁さんがそこまで言うなんて、ふたりは本当に友人関係なのだろうか……。不安な表情でいると、萼さんはそんな私の顔を見つめてきた。
「菜乃ちゃんは弱そうだね、その辺」
「え……」
「皆に好かれてるかどうか、不安で仕方ないでしょ」
 結構なことを言われているのに、私はそのまま固まってしまった。
 じっと見つめられていると、心まで見透かされるような気持ちになってくる。