お通しで出されていた筑前煮の具を箸でつまんで、菜乃ちゃんの口の前にさしだす。
「はい、菜乃ちゃん、あーん」
「え?」
すると、菜乃ちゃんは驚きながらも反射的にそれをパクッと食べた。
食べたあとに「これ食べてもいいんですか?」と聞き返してきたので思わず笑ってしまった。
「葵、あんまりこいつを甘やかすな」
「えーいいじゃん。畑仕事頑張ったみたいだし」
あれからずっと考えていたけど、僕にとっての菜乃ちゃんはただの癒し的な存在なのだろうか。
それともこれが、恋ってやつなのだろうか。
今まで一回も本気で誰かを好きになったことがないから分からない。
でも菜乃ちゃんと爽君がイチャイチャしているのを見るのは嫌だし、菜乃ちゃんに触れてみたいとも思う。
もし本当にそうだとしたら、これが恋だとしたら、もうすでに相当不毛な思いなのでは……。
なんて思っていると、ふと急に菜乃ちゃんの顔が近づいてきた。
「あ、葵さん、長い睫毛がほっぺに付いてますよ」
「えっ」
思わず動揺して、少しのけぞってしまった。
菜乃ちゃんは睫毛が取れたことに満足したのか、無防備に笑っている。
触れることには慣れているのに、触れられるとこんなにも動揺してしまうなんてこと、初めてだ。
でも今の距離感は、菜乃ちゃんが僕を恋愛対象として見ていないからのものなんだろう。
……あれ、なんだか、胸がチクッと傷む。
これって僕が昔、色んな女の子にやってきたことなんだ。
好きな相手にこんな風に近寄られたら、受け手はこんなにドキドキしてぐるぐる余計なことを考え過ぎちゃうものなんだ。
昔の自分を少し反省したそのとき、スマホがぶぶっと震えた。
マネージャーからの電話だった。
僕は店の外に出て、その電話に出る。
『あ、お疲れー。記事の反響なかなかじゃん』
「いやー、ありがとうございます。ほんとお騒がせしました」
『明日の打ち合わせなんだけどー……』
デビュー当時からお世話になっている柿谷マネージャーは、頼りになるバリキャリだ。もはや東京の母親という感じで、この人に見つけてもらったことは感謝してもしきれない。
いつも通りサバサバしている、要点だけの連絡をしっかりメモった。
そのまま電話を切ろうとすると、柿谷マネージャーは「そういえば」とギリギリで声を上げた。
「はい、菜乃ちゃん、あーん」
「え?」
すると、菜乃ちゃんは驚きながらも反射的にそれをパクッと食べた。
食べたあとに「これ食べてもいいんですか?」と聞き返してきたので思わず笑ってしまった。
「葵、あんまりこいつを甘やかすな」
「えーいいじゃん。畑仕事頑張ったみたいだし」
あれからずっと考えていたけど、僕にとっての菜乃ちゃんはただの癒し的な存在なのだろうか。
それともこれが、恋ってやつなのだろうか。
今まで一回も本気で誰かを好きになったことがないから分からない。
でも菜乃ちゃんと爽君がイチャイチャしているのを見るのは嫌だし、菜乃ちゃんに触れてみたいとも思う。
もし本当にそうだとしたら、これが恋だとしたら、もうすでに相当不毛な思いなのでは……。
なんて思っていると、ふと急に菜乃ちゃんの顔が近づいてきた。
「あ、葵さん、長い睫毛がほっぺに付いてますよ」
「えっ」
思わず動揺して、少しのけぞってしまった。
菜乃ちゃんは睫毛が取れたことに満足したのか、無防備に笑っている。
触れることには慣れているのに、触れられるとこんなにも動揺してしまうなんてこと、初めてだ。
でも今の距離感は、菜乃ちゃんが僕を恋愛対象として見ていないからのものなんだろう。
……あれ、なんだか、胸がチクッと傷む。
これって僕が昔、色んな女の子にやってきたことなんだ。
好きな相手にこんな風に近寄られたら、受け手はこんなにドキドキしてぐるぐる余計なことを考え過ぎちゃうものなんだ。
昔の自分を少し反省したそのとき、スマホがぶぶっと震えた。
マネージャーからの電話だった。
僕は店の外に出て、その電話に出る。
『あ、お疲れー。記事の反響なかなかじゃん』
「いやー、ありがとうございます。ほんとお騒がせしました」
『明日の打ち合わせなんだけどー……』
デビュー当時からお世話になっている柿谷マネージャーは、頼りになるバリキャリだ。もはや東京の母親という感じで、この人に見つけてもらったことは感謝してもしきれない。
いつも通りサバサバしている、要点だけの連絡をしっかりメモった。
そのまま電話を切ろうとすると、柿谷マネージャーは「そういえば」とギリギリで声を上げた。