それは、男の子としての感情なのか、女の子としての感情なのか、そのときはハッキリとは分からなかたった。
でも、菜乃ちゃんのことがどうしようもなく愛しいと思ってしまったことは、たしかだった。
〇
「あ、葵さん、こんばんはー!」
あの事件が落ち着いて、ようやく菜乃ちゃんともゆっくり会えるようになった。
いつも通り植物に溢れた店内で、菜乃ちゃんが少しほろ酔いした表情で椅子に座っている。
店内はとっても狭くて、五脚しかない椅子の感覚もかなり狭く、隣に座ると距離が近い。
「この前の記事読みましたよ! すごくよかったです」
「あ、もう読んでくれたの?」
この前の記事とは、僕の今までの生き方や考え方を、本当にありのまま綴った記事だ。
本当は写真集発売後にアップする予定だった記事を、少し早めてアップしたのだ。
自分が思った以上に記事の反響は大きく、自分と同じ悩みを持った人からも多くコメントが寄せられた。
もちろんいいコメントばかりではなかったが、とくに女の子は意外にも好意的な意見を寄せてくれる人が多かった。
「急だったけど、一歩先のステージに行くことができて、よかったかな。菜乃ちゃん、この前は本当にありがとう」
「いやいや、私はおにぎり届けただけですので」
菜乃ちゃんは恥ずかしそうに手を横に振って、照れ笑いしていた。
それから、柔らかそうな茶髪をかきあげて、「暑いー」と言って自分の顔を手で扇いでいる。
たしかに今日は気温が高いけど、そこまでだろうか。
「実はさっきまで草壁さんに畑耕すの手伝わされてて……」
「ええ、ちょっと爽君こき使いすぎじゃないー?」
やっぱりこのふたり仲良いんだ。
爽君がなにか手伝わせるなんてこと、僕レベルの常連客じゃないとしないのに。
爽君はすました顔で料理を作りながら、菜乃ちゃんの愚痴を聞き流している。
「花井、今日のドリンク全部無料にしてやるから」
「私、飲み物一気に一リットルは余裕で飲めるんですけど、大丈夫ですか?」
「……ああ、水道水なら飲み放題だ」
「ええっ、話が違う」
ちょっと本当に仲良すぎないか?
菜乃ちゃんは食い意地が張っているので本気で怒っているが、爽君はその様子になんだか癒されているようにも見える。僕には分かる。
なんだか邪魔をしたくなって、僕はつい卑怯な手を使ってしまった。
でも、菜乃ちゃんのことがどうしようもなく愛しいと思ってしまったことは、たしかだった。
〇
「あ、葵さん、こんばんはー!」
あの事件が落ち着いて、ようやく菜乃ちゃんともゆっくり会えるようになった。
いつも通り植物に溢れた店内で、菜乃ちゃんが少しほろ酔いした表情で椅子に座っている。
店内はとっても狭くて、五脚しかない椅子の感覚もかなり狭く、隣に座ると距離が近い。
「この前の記事読みましたよ! すごくよかったです」
「あ、もう読んでくれたの?」
この前の記事とは、僕の今までの生き方や考え方を、本当にありのまま綴った記事だ。
本当は写真集発売後にアップする予定だった記事を、少し早めてアップしたのだ。
自分が思った以上に記事の反響は大きく、自分と同じ悩みを持った人からも多くコメントが寄せられた。
もちろんいいコメントばかりではなかったが、とくに女の子は意外にも好意的な意見を寄せてくれる人が多かった。
「急だったけど、一歩先のステージに行くことができて、よかったかな。菜乃ちゃん、この前は本当にありがとう」
「いやいや、私はおにぎり届けただけですので」
菜乃ちゃんは恥ずかしそうに手を横に振って、照れ笑いしていた。
それから、柔らかそうな茶髪をかきあげて、「暑いー」と言って自分の顔を手で扇いでいる。
たしかに今日は気温が高いけど、そこまでだろうか。
「実はさっきまで草壁さんに畑耕すの手伝わされてて……」
「ええ、ちょっと爽君こき使いすぎじゃないー?」
やっぱりこのふたり仲良いんだ。
爽君がなにか手伝わせるなんてこと、僕レベルの常連客じゃないとしないのに。
爽君はすました顔で料理を作りながら、菜乃ちゃんの愚痴を聞き流している。
「花井、今日のドリンク全部無料にしてやるから」
「私、飲み物一気に一リットルは余裕で飲めるんですけど、大丈夫ですか?」
「……ああ、水道水なら飲み放題だ」
「ええっ、話が違う」
ちょっと本当に仲良すぎないか?
菜乃ちゃんは食い意地が張っているので本気で怒っているが、爽君はその様子になんだか癒されているようにも見える。僕には分かる。
なんだか邪魔をしたくなって、僕はつい卑怯な手を使ってしまった。