【side茎田葵】住人file①
昔から、自分の顔は比較的可愛い方だと思っていた。
だから、戦隊ものがプリントされたTシャツや、迷彩柄のパンツは自分には似合っていないと、不服に感じていたんだ。
体を動かすことが好きだから、スポーツは好きだった。同じクラスの男子と泥にまみれてサッカーやテニスもよくした。
一方で、姉が購読しているファッション雑誌を見ることも大好きだった。
どっちの遊びも好きなのに、後者は誰にも理解してもらえなかった。
でも、小学生のころは上手くそれを言語化できなくて、友達もたくさんいたので、なにも不自由には思っていなくて。
だけど、多感な中学生になると、僕の日常は少しずつ変わっていった。
あれは今思い出しても、喉の奥がキュッと苦しくなる。
「葵、今日の練習、外周からだって」
「OK、今行く」
中学二年の夏。テニス部に入った僕は、チームメイトの郡司(グンジ)と、とくに仲が良かった。
郡司はテニスが上手くて、冗談ばっか言ってるクラスの人気者だ。まさにスポーツ少年、という感じの短髪姿がよく似合う。
俺は、ジャージに着替えてから、教室で部活動に向かう準備をしていた。
大会が近づき、この猛暑だというのにますます練習は厳しくなっていく。
郡司とダブルスを組んでいるので、必然と一緒に練習したり作戦を考えたりメニューを組むことが多くて、会話を通して郡司の真面目さはよく知っていた。
「ごめん葵君、ちょっと今いい?」
ラケットを担いでちょうど教室から出ようとしたとき、クラスメイトの藍(アイ)ちゃんが現れた。
藍ちゃんは小学校からの友人で、中学生になったとたん、すらっと身長が伸びてよりきれいになった。
僕らは、お互いのおしゃれな服を褒めあったり、髪形を相談するような仲だ。僕にとっても貴重なファッション好きの友達。
「うん、どうしたの? 僕もうすぐ練習でちゃうけど」
「あっ、そっか! そうだよね。ごめん」
郡司は黙って僕たちのことを見つめて待ってたが、なにかを察したのかニヤニヤとした笑顔を浮かべてくる。
「うわー、もしかして俺お邪魔かな?」
「ちょっと郡司、うるさい! 分かったなら先行っててよ」
「はいはい、そんな怒り顔じゃフラれちまうぞ。学年一の王子様は大変だな、葵」
「わっ、バカ!! 最悪」