アプリを開くと、『ちょっとしばらく留守にするね! 心配しないで』という言葉が書かれていた。
「葵さん……」
「どこにいんだあいつ……」
 ふと不安がよぎり、ネットの今の反応が気になって調べると、ツイッターには、葵さんの元同級生らがアップしたのか、葵さんの過去の写真が数枚上がっていた。
 路地裏で聞いた葵さんの力ない言葉が、頭の中に浮かんでくる。
『信じられないスピードで、友達を全員失ったんだ……』
 葵さんにかける言葉が見つからない。
 だけど、私はいてもたってもいられずに、葵さんに電話をかけた。
 もちろん繋がることはない。だから、切れても切れてもかけ続ける。
 草壁さんは途中で止めようとしたが、それでも私は諦められなくて。
 すると、私の執念深い思いが届いたのか、ようやく電話がつながった。
『どうしたの、菜乃ちゃん……。ごめん今はひとりに……』
 葵さんの弱弱しい声を聞いて、私は咄嗟に声を荒げてしまった。
「あのっ、こういうときは、絶対ひとりでいちゃだめなんですよ!! どこにいるんですか?」
『えっ……』
「今、どこにいるんですか?」
 私の勢いに負けたのか、圧倒されただけなのか、葵さんは小さな声でつぶやいた。
『こ、公園……目白の……』
「分かりました、そこ動かないでください!」
 スマホを切った私を見て、心配そうに草壁さんが問いかける。
「葵の居場所、分かったか」
「はいっ、今から行ってきます。草壁さんは、これから明日のお店の仕込みを始めるんですよね? そっち優先してください」
「なに言ってんだ。行くよ。こんな遅くに」
 そう言ってくれた草壁さんに、私はぐっと親指を立てて元気よく宣言した。
 私にはなにもできないけど、草壁さんには、葵さんたちの居場所を守ってほしいから。
 その役割は、草壁さんしかできないことだから。
 あの植物レストランは、優しいろうそくの光のような場所なんだ。
 葵さんにとっても、私にとっても。
「明日、葵さんと行くので、美味しい料理楽しみにしてますね」
 そう言って、エレベーターを使って降りていった。
 草壁さんは心配そうな顔をしていたけれど、私は笑顔で手を振った。

 環七通りを走るタクシーを止めて、急いで目白へ向かう。
 葵さんがいるといったのは、住宅街の中にある小さな公園だった。