なんて適当なことを言いながらキレている草壁さんを中に押しこもうとすると、記者のふたりが私にも質問を投げかけてきた。
「お姉さんは、人気モデルの茎田葵が女装癖があると知ってどう思いましたか」
「え……」
「ファンの方たちはショックを受けているようですが、ファンをだましていたご本人は今どう思われているのでしょうか」
 その質問に、今度は私がプツンと切れかけてしまった。草壁さんを宥めに来た私が今度は冷静さを失うなんて、さすがに駄目だ。
 大人として対応するんだ……大人として……。
 そう思って深呼吸した。けれど、私の口からはつい尖った本音が飛び出てしまった。
「これまでも、これからも、茎田葵は茎田葵のままです! 自分の好きな服を着て、自分の好きな人を愛することが、どう“だました”ってことに繋がっていくんですか! 私には理解できません」
 そこまで言い切ると、私はバタンとドアを閉めて中に入った。
 ドアに背を向けて鬼の形相で乱れた息を整えていると、草壁さんがそんな私を見てぽかんとしていた。
 こんなに声を荒げたのは久々で、慌てて口を手で押さえて「店前で騒いですみません……」と謝ると、草壁さんは一瞬だけ笑った。
 それから、私の頭をポンとたたいてからつぶやく。
「よくがんばった」
「え……」
「よし、じゃあ、つくるか」
「今から料理するんですか? 今日はお休みなのに」
 草壁さんはキッチンに立つと、冷凍庫を漁りはじめる。
 草壁さんの優しい笑顔にときめいている暇もなく、調理を始める様子を驚きながら見守ることに。
「この報道じゃ、家から出られないだろ。葵、今日はオフだって言ってたし」
「なるほど! お弁当作るんですね!」
「いや隣のマンションに持っていくだけだけどな」
 呆れた顔でつっこみながら、草壁さんは冷凍していた麦ごはんを電子レンジで解凍していく。
 温まった麦ご飯をボウルにあけて、そこに角切りにしたチーズを入れ混ぜ合わせ、ラップを使って丸く握る。
 続いて、味噌、みりん、醤油、を混ぜたものを麦飯の片面に厚く塗って、味噌が塗られた面を上にしてトースターで五分焼く。
 すると、味噌の香りがふわっと店内に顔って、思わずお腹が鳴ってしまった。
「うっ……、お昼食べられなかったから」
「はは、花井のも作ってるから安心しろ」
「ほ、ほんとですか、草壁さん……!」