でも、葵さんのファンが写真集を待ち遠しく思っているコメントを見ると、なんだか私まで嬉しくなってくる。
 ニヤつきながらスマホを眺めていると、「ここいいか」という低い声が上から降ってきたのでバッと顔を上げた。
「いい食べっぷりだな。どうしたら花井みたいな胃の強さを手に入れられるのか教えてほしいよ」
「く、草壁さん……!」
 座ってもいいと言っていないのに、草壁さんは私の目の前の席に座ってきた。
 たしかに食堂は混雑していて、他に席がないけれど、草壁さんと一緒にいるところを会社で見られたら桃野さんたちになんて言われるか……。
 私はラーメンを飲み込んでから小声で話しかけた。
「ちょっと、草壁さん、会社で接点のない私たちが話してると変に思われるじゃないですか」
「こういう食堂のチープなちぢれ麺がたまに無性に食べたくなるときあるよな。俺もラーメンにすればよかった」
「ちょっと、話聞いてます!?」
「誰も俺たちのことなんか見てねぇよ」
 私は誰ひとりにも見られてないけれど、草壁さんは違うじゃないですか、という怒りの言葉を飲み込んだ。
 草壁さんは優雅に手を重ねて「いただきます」と言ってから、本日の日替わりである生姜焼き定食を頬張った。
 私もできるだけ平静を装ってラーメンをすすっていると、一番見られたくない人と草壁さん越しに目が合ってしまった。
 草壁さんと同じシステム事業部の榎本さんだ。
 今日も日本人形のように美しい黒髪を艶めかせている。
 彼女は鬼の形相で一瞬私を睨んでから、偶然空いた草壁さんの隣の席にトレーを置いた。
 へ、変な汗が止まらないんですけど……。
「草壁さん、ここいいですかあ?」
「ああ、いいけど」
「やったあ、草壁さんが社食いるなんて珍しいですね。あ、企画営業の花井さん、お疲れ様です」
 爽やかな笑顔をこちらに向けている榎本さんは、昼食にペペロンチーノを選んでいた。
 そうそう、ここの食堂のパスタの麺は意外とクオリティが高くて美味しいんだよな。榎本さん分かってる……。
 でも私にはちょっと量が足りなくていつも大盛にした上にパンも買っちゃうんだよね。
 なんて食欲に気が向いてしまっていると、榎本さんが私のトレーを見てくすっと笑った。
「宣伝部の花井さん、やっぱり草壁さんと仲いいんですね」
 にっこりとした笑顔の裏にがっつり敵意を感じる。