「料理が趣味なんだ。金曜夜だけ、隣のマンションの住人限定でレストランを開いてる。誰にも言うなよ」
「れ、レストラン……⁉︎」
予想外の回答に驚き、私は思わず大きな声を上げてしまった。
「いいから。そんなとこ突っ立ってないで、座れ」
「は、はい。失礼します……」
絵本の中に迷い込んでしまったのだろうか。それとも疲れすぎて幻を見ているのだろうか。
それくらい今の状況に追いつけていない。
少し高めの丸椅子に腰掛けると、私は改めて店内をぐるりと見渡す。
狭いカウンターには、手のひらに乗るサイズの可愛らしい多肉植物が並んでいる。
天井には、水色やピンク色のドライフラワーが逆さに吊るされていて、壁は背の高い植物が覆い尽くしている。
――深夜の植物園に紛れ込んでしまった。本当にそんな感覚なのだ。
どうしよう、私、すごくドキドキしているのにこの緑に癒されてしまっている。
今日起きた嫌なことが、植物に囲まれただけでするすると洗い落とされていく。
思わず目を瞑って深呼吸をしていると、草壁さんに話しかけられた。
「苦手なものあるか?」
「いえ、なんでも食べられます! というより、本当に作ってくれるんですか……?」
「どうせ明日の夜の仕込みをするところだったしな」
「草壁さんも、今日残業してたのでは……」
「いや、スーパーに寄った帰りだっただけだ」
冷蔵庫に食材を詰め込んだ草壁さんは、腰から下を覆うタイプの黒いエプロンをサッと結ぶと、キッチンの明かりを付けた。
草壁さんの美しい顔がべっこう色の光に照らされて、私は思わずまじまじと見つめてしまう。
異例のスピードでCTOになった若きイケメンエリートがいる……なんて噂は、他部署である私ですら知っていた。
社内報でしか草壁さんの顔をしっかりと見たことがなかったけれど、切れ長の瞳に、すっと通った鼻筋と、透明感のある綺麗な肌……という風にイケメンの要素が揃いすぎている。
しかし、会社では無口で一言も無駄話をしないと有名な彼は、孤高のエリートと呼ばれ近寄りがたいことでも知られていて。
こんな人の手料理を食べられるだなんて、もし夢だったとしても贅沢すぎる。
眺めの前髪からのぞく、真剣な瞳に思わずどぎまぎしていると、バチッと目が合ってしまった。
「目が赤い」
「れ、レストラン……⁉︎」
予想外の回答に驚き、私は思わず大きな声を上げてしまった。
「いいから。そんなとこ突っ立ってないで、座れ」
「は、はい。失礼します……」
絵本の中に迷い込んでしまったのだろうか。それとも疲れすぎて幻を見ているのだろうか。
それくらい今の状況に追いつけていない。
少し高めの丸椅子に腰掛けると、私は改めて店内をぐるりと見渡す。
狭いカウンターには、手のひらに乗るサイズの可愛らしい多肉植物が並んでいる。
天井には、水色やピンク色のドライフラワーが逆さに吊るされていて、壁は背の高い植物が覆い尽くしている。
――深夜の植物園に紛れ込んでしまった。本当にそんな感覚なのだ。
どうしよう、私、すごくドキドキしているのにこの緑に癒されてしまっている。
今日起きた嫌なことが、植物に囲まれただけでするすると洗い落とされていく。
思わず目を瞑って深呼吸をしていると、草壁さんに話しかけられた。
「苦手なものあるか?」
「いえ、なんでも食べられます! というより、本当に作ってくれるんですか……?」
「どうせ明日の夜の仕込みをするところだったしな」
「草壁さんも、今日残業してたのでは……」
「いや、スーパーに寄った帰りだっただけだ」
冷蔵庫に食材を詰め込んだ草壁さんは、腰から下を覆うタイプの黒いエプロンをサッと結ぶと、キッチンの明かりを付けた。
草壁さんの美しい顔がべっこう色の光に照らされて、私は思わずまじまじと見つめてしまう。
異例のスピードでCTOになった若きイケメンエリートがいる……なんて噂は、他部署である私ですら知っていた。
社内報でしか草壁さんの顔をしっかりと見たことがなかったけれど、切れ長の瞳に、すっと通った鼻筋と、透明感のある綺麗な肌……という風にイケメンの要素が揃いすぎている。
しかし、会社では無口で一言も無駄話をしないと有名な彼は、孤高のエリートと呼ばれ近寄りがたいことでも知られていて。
こんな人の手料理を食べられるだなんて、もし夢だったとしても贅沢すぎる。
眺めの前髪からのぞく、真剣な瞳に思わずどぎまぎしていると、バチッと目が合ってしまった。
「目が赤い」