すると、そこには優しい瞳をしている草壁さんがいた。
 その様子に戸惑った顔をすると、草壁さんはハッとなにかに気づいたように首を振って、「なんでもない」とつぶやいた。
「あまりの食べっぷりに、またクォッカの映像が浮かんでしまった……」
「だからそれ……全然嬉しくないんですけど……」
「まあ、たくさん食え。今日はもちろんお代はいいから」
「ええ! いいんですか⁉︎」
「当たり前だろ。助かった」
 助かった、というその一言に、心がふっと軽くなる。
 よかった。私まだ、誰かの役に立てることができるんだ。
 もう誰の役にも立てないんじゃないかって、そんなふうに思うことさえあったから。
 草壁さんの言葉に安堵していると、草壁さんは少し言い出しづらそうに言葉を続けた。
「最初は、祖母がつくったこの店をそのまま瓦礫にすることがもったいなかっただけで始めた店なんだ、ここは。……でも、いつのまにか、居場所がない奴らが集まる店になった。俺自身、なにも人生に楽しいことがなかったけど、今は金夜のために仕事してる自分がいる」
「そうだったんですね……」
「さっき、花井は自分がユーザーのために仕事できてるか不安って言ってたけど、花井は多分ちゃんとできてるよ。まだ上手く仕事と繋がってないだけで」
「そ、そうなんでしょうか……」
「これから先、働いてる人生がしばらく続くんだから、仕事が自分と会社のためだけじゃつまんねぇだろ。花井は、少しでもここでやりたいことがあって入ってきたんだから」
 やりたいこと……。それは、色んな人がわくわくする新しい食べ方を提供することだ。
 その気持ちは入社当初からあるけれど、たしかに上手く仕事と結びつけられていなかったかもしれない。今日私は、仕事をこなすことに手一杯で、どうやったらユーザーにワクワクしてもらえるのか、それを考えられていなかった。
「でも私、食べることが大好きというそれだけの志望動機なんですけど……」
「なに言ってんだ。仕事上で、”好き”は最強なんだぞ。よかったな食いしん坊で」
 そう言って、草壁さんは私がもりもり食べていたカレーを指差す。
 私も、今日作ったカレーを改めて見つめる。このカレーを食べているとき、私はすごく幸せでワクワクした。どんな味になっているのか楽しみながら作っていた。だって、食べることが大好きだから。