「いやいない。あいつの家族は今施設にいるばあちゃんしかいないはず」
「あ、そうなんですか……」
そっか。知らなかった。
少し気まずそうにした私に、萼さんは「お腹空いたなあ」と注文のジェスチャーをした。
寝ている草壁さんの横で、一生懸命作ったトマトカレーを白磁の器によそる。
あっという間に店内中にスパイシーな香りが漂って、私まで食欲が刺激されてしまった。
萼さんにおそるおそる料理を差しだすと、萼さんは「美味そう!」と目を輝かせる。
ほとんど草壁さんの指示のもと作った料理だけれど、そう言われると嬉しい。
照れながら、萼さんがカレーを頬張る様子を見ていると、彼は一口食べた瞬間さらに目を輝かせる。
「美味い。最高。これ、菜乃ちゃんが作ったの?」
「あ、はい。草壁さんの監修のもとですけど……」
「トマトの酸味とカレーの香辛料が食欲刺激しまくりだよ。菜乃ちゃんも一緒に食べたら? お腹空いてるでしょ」
「ええっ、流石にそんな! たしかにお腹は空きましたけど」
「へぇ、真面目だねー?」
ま、真面目というか……。
またも戸惑っている私を目の前に、萼さんは電子タバコを蒸した。
自由人だなあ……。なんだか、すべてキチッとしている草壁さんとは似ても似つかない。
「草壁って、会社だとどんな感じ?」
「今よりは、もっと緊張感ある様子ですね。近寄りがたいというか……」
「今も近寄りがたくない? これ以上無愛想なのあいつ? 変わんねぇなあ」
「昔から、草壁さんはこんな感じだったんですか?」
「んー? まあそうと言えばそうだけど……」
そこまで言うと、萼さんは私の顔をじっと見つめて、少し低い声で囁く。
「知りたい? あいつのこと」
「え……」
「なんでこんなことやってんのか、知りたくない?」
まさかそんな質問をされるだなんて。
しかし私は押し黙ることなく、思ったことがふっと口から出てしまった。
「べ、別に知りたくないです……」
「え?」
「ただの上司のプライベートにこれ以上入るなんて、気が引けます……。そもそもそこまで興味もないですし……」
あはは、と苦笑いしながら正直に答えると、萼さんは手を叩いて笑った。
こんなに豪快に笑う人だと思っていなかったので、驚いてしまった。
「あはは、たしかに。興味ないよね、こんなド理系で無愛想な男に」
「あ、そうなんですか……」
そっか。知らなかった。
少し気まずそうにした私に、萼さんは「お腹空いたなあ」と注文のジェスチャーをした。
寝ている草壁さんの横で、一生懸命作ったトマトカレーを白磁の器によそる。
あっという間に店内中にスパイシーな香りが漂って、私まで食欲が刺激されてしまった。
萼さんにおそるおそる料理を差しだすと、萼さんは「美味そう!」と目を輝かせる。
ほとんど草壁さんの指示のもと作った料理だけれど、そう言われると嬉しい。
照れながら、萼さんがカレーを頬張る様子を見ていると、彼は一口食べた瞬間さらに目を輝かせる。
「美味い。最高。これ、菜乃ちゃんが作ったの?」
「あ、はい。草壁さんの監修のもとですけど……」
「トマトの酸味とカレーの香辛料が食欲刺激しまくりだよ。菜乃ちゃんも一緒に食べたら? お腹空いてるでしょ」
「ええっ、流石にそんな! たしかにお腹は空きましたけど」
「へぇ、真面目だねー?」
ま、真面目というか……。
またも戸惑っている私を目の前に、萼さんは電子タバコを蒸した。
自由人だなあ……。なんだか、すべてキチッとしている草壁さんとは似ても似つかない。
「草壁って、会社だとどんな感じ?」
「今よりは、もっと緊張感ある様子ですね。近寄りがたいというか……」
「今も近寄りがたくない? これ以上無愛想なのあいつ? 変わんねぇなあ」
「昔から、草壁さんはこんな感じだったんですか?」
「んー? まあそうと言えばそうだけど……」
そこまで言うと、萼さんは私の顔をじっと見つめて、少し低い声で囁く。
「知りたい? あいつのこと」
「え……」
「なんでこんなことやってんのか、知りたくない?」
まさかそんな質問をされるだなんて。
しかし私は押し黙ることなく、思ったことがふっと口から出てしまった。
「べ、別に知りたくないです……」
「え?」
「ただの上司のプライベートにこれ以上入るなんて、気が引けます……。そもそもそこまで興味もないですし……」
あはは、と苦笑いしながら正直に答えると、萼さんは手を叩いて笑った。
こんなに豪快に笑う人だと思っていなかったので、驚いてしまった。
「あはは、たしかに。興味ないよね、こんなド理系で無愛想な男に」