「草壁さん、私、人生ではじめてこんなに美味しそうな料理つくれました! ありがとうございます!」
思わずはしゃいでしまった私は、割と近くに草壁さんがいることを忘れて、笑顔で振り向いてしまった。
数センチ先に草壁さんのきれいな顔があって、私はそのまま固まる。
草壁さんは一切動揺せずに、「そうかよ、よかったな」と、少しだけ微笑んでくれた。
それから、ぽんと肩を軽く叩いて、
「助かった。ありがとう」
と言ってくれた。
今日一日落ち込んでいた気持ちが、その一言で晴れてしまった。
……私、やっぱり、誰かの役に立つことが好きなんだ。誰かの役に立ちたいんだ。
今日の職場での自分はダメだったけど、挽回できるよう頑張ってみたい。
このお店で、少しでも役に立てたという自信を、大切にしたい。
そんなことを思っていると、私がよほど安心したような顔をしていたのか、草壁さんがじっと私の顔を見つめてきた。
「な、なんですか。なにか……」
「花井、前のクズとは、もう大丈夫なのか」
「く、クズ……? あ、もしかして元彼のことですか!」
まさかそんなことを気にかけてくれるなんて。
私は「お陰様でもうなんともありません!」と元気に答えた。
すると、草壁さんは安心したように目尻を少しだけ下げた。
会社での草壁さんは、冷徹で近寄りがたいイメージだったけれど、今は全然そんなことない。
こんな草壁さんを知ったら、女性社員はもっと草壁さんのことを好きにってしまうんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら草壁さんの顔を見つめていると、来店を知らせるベルが鳴り響いた。
「あ、いらっしゃいませ!」
咄嗟にあいさつをすると、お客さんはドアノブを持ったままお店に入らず固まっていた。
お人形みたいにかわいい女性だった。
困惑したままお互い固まっていると、うしろから新たなお客さんがやってきたのか「つまってるんだけどー?」という声だけが聞こえてきた。
そして、無理やり開け放たれたドアから、二名のお客さんの姿があらわになった。
あとから入ってきたのは、無造作なパーマが印象的な、草壁さんと同い年くらいの男性だった。
その人は私を見るなり、楽しそうにニヤリと目尻を下げて、茫然と立ち尽くしている女性の肩を雑に叩いた。
「残念だったな芽依。女将の道は閉ざされた」
思わずはしゃいでしまった私は、割と近くに草壁さんがいることを忘れて、笑顔で振り向いてしまった。
数センチ先に草壁さんのきれいな顔があって、私はそのまま固まる。
草壁さんは一切動揺せずに、「そうかよ、よかったな」と、少しだけ微笑んでくれた。
それから、ぽんと肩を軽く叩いて、
「助かった。ありがとう」
と言ってくれた。
今日一日落ち込んでいた気持ちが、その一言で晴れてしまった。
……私、やっぱり、誰かの役に立つことが好きなんだ。誰かの役に立ちたいんだ。
今日の職場での自分はダメだったけど、挽回できるよう頑張ってみたい。
このお店で、少しでも役に立てたという自信を、大切にしたい。
そんなことを思っていると、私がよほど安心したような顔をしていたのか、草壁さんがじっと私の顔を見つめてきた。
「な、なんですか。なにか……」
「花井、前のクズとは、もう大丈夫なのか」
「く、クズ……? あ、もしかして元彼のことですか!」
まさかそんなことを気にかけてくれるなんて。
私は「お陰様でもうなんともありません!」と元気に答えた。
すると、草壁さんは安心したように目尻を少しだけ下げた。
会社での草壁さんは、冷徹で近寄りがたいイメージだったけれど、今は全然そんなことない。
こんな草壁さんを知ったら、女性社員はもっと草壁さんのことを好きにってしまうんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら草壁さんの顔を見つめていると、来店を知らせるベルが鳴り響いた。
「あ、いらっしゃいませ!」
咄嗟にあいさつをすると、お客さんはドアノブを持ったままお店に入らず固まっていた。
お人形みたいにかわいい女性だった。
困惑したままお互い固まっていると、うしろから新たなお客さんがやってきたのか「つまってるんだけどー?」という声だけが聞こえてきた。
そして、無理やり開け放たれたドアから、二名のお客さんの姿があらわになった。
あとから入ってきたのは、無造作なパーマが印象的な、草壁さんと同い年くらいの男性だった。
その人は私を見るなり、楽しそうにニヤリと目尻を下げて、茫然と立ち尽くしている女性の肩を雑に叩いた。
「残念だったな芽依。女将の道は閉ざされた」