しかし食欲を抑えきれずに、葵さんはパストラミビーフサンドから、私はポテトサラダサンドから食べ始める。
「美味しい! ビーフが分厚くてジューシーで、濃厚なアボカドとよく合ってる。千切りしたニンジンの歯ごたえもめっちゃいい……。バジルマヨも香り最高! お酒も進む!」
「ポテトとブルーチーズとはちみつってこんなに合うんですね? シャキシャキしたオニオンが入ってるのもすごくいいです……」
 レポーターばりのコメントが飛び出すほど、あまりの美味しさに感動してしまった。
 葵さんも、夢中でボリュームサンドにかぶりついている。
 そんな私たちの食欲を見て、草壁さんが一瞬満足げにしていたのを見逃さなかった。そしてその一瞬を、少し可愛いとさえ思ってしまった。
 危ない、危ない……。これがイケメンマジックか。
 私はうっかりときめいてしまった気持ちを掻き消すように、パストラミビーフサンドにもかぶりつく。
「なんだこれ……うぅ、草壁さん、美味しいです……」
「泣くなよ。あとデザートも作ったからな」
「ええ? デザートもあるんですか」
「誰かさんが切るのに失敗したアボカドがかわいそうだったからな」
「す、すみません……」
「冗談だ。元から仕込み済みのやつだ」
 可愛らしい水色のガラスのお皿に、抹茶アイスのようなものが盛りつけられて出てきた。
「アボカドとバナナのアイスだ」
「アボカドってアイスにするもんなんですか!」
「花井はいちいち反応が大袈裟だな」
 呆れられながらも、私はそのアイスをゆっくり口に運ぶ。
 アボカドの濃厚な味わいが、バナナの甘みと香りに包まれている。想像以上になめらかでねっとりとした食感だ。
 新感覚な美味しさに言葉がすぐに出ないでいると、葵さんがそんな私を見て笑いながら草壁さんに話しかける。
「あはは、ねぇ爽君、本当菜乃ちゃん面白いね。気に入っちゃった」
「葵、お前が本当は男性モデルだってことも話したのか」
「うん、爽君と出会ったときのことも話しちゃった」
「余計なことを……」
 眉間にぐっとしわを寄せる草壁さんを見て、葵さんはもっと笑った。
 素敵なエピソードだったのに、なんでそんなに嫌そうにするんだろう。
 つくづく、草壁さんはただ不器用なだけなんだなと実感する。
 そんな草壁さんに、葵さんは質問を投げた。