思わずグラスから氷を落っことしてしまう。
 ちょうどさっき、そんな風にこのお店で役立てたらな……なんて思っていたところだったから。
 ちらりと草壁さんの反応をうかがうと、草壁さんは一切手元から目を離さずにこう言った。
「ダメだ。アボカドすら切れないやつに時給は払えん」
「爽君なんでー。いいじゃん、菜乃ちゃんいるとなんか和むし」
 ぶーぶーと口を尖らせる葵さんを無視して、草壁さんは無心でパンにバターを塗っている。
 そんな草壁さんに、私は勢いよく申しでた。
「タ、タダ働きでもいです!」
「いやなんでだよ。そこまでしてもらう理由はない」
「が、がーん……」
「効果音を口に出すな。とにかく、これは俺の趣味だから。客として、腹が減ったら食いに来ればいい」
 ドライな口調になにも言い返せずに、私は自分で作ったハイボールを口に運ぶ。
 なんだかちょっと残念だ。
 だけど、草壁さんが作り上げたお店を、私みたいな新参者が手伝うなんて、よく考えるとおこがましいな。
 葵さんは「爽君のケチー」と拗ねていたけれど、私はそれ以上なにも言わなかった。
 そうこうしているうちに、草壁さんはカラフルな野菜が入ったタッパーを冷蔵庫から取り出した。
 私は思わず興奮して声をあげる。
「わあっ、きれい! すっごいカラフルですね」
「今からこれをパンに挟んでボリュームサンドをつくる」
 タッパーに入った食材を、草壁さんは丁寧に説明してくれた。
 スライスしたアボカド、レーズン入りキャロットサラダ、レッドオニオンの甘酢漬け、黒コショウが効いたパストラミビーフの分厚い切り落とし、朝摘みバジルを刻んでマヨネーズに和えた特製ソース、角切りブルーチーズとはちみつが入ったポテトサラダ。
 草壁さんは、それらを器用にパンの上に載せていく。
 パストラミビーフ、キャロット、アボカド、バジルマヨの組み合わせのカラフルなパストラミビーフサンドと、ポテトサラダとオニオンのみのシンプルだけど個性がある、ブルーチーズ入りポテトサラダサンドが完成した。
「なんですか……この果てしなくおしゃれで映えまくりなご飯は……」
 あまりの美しさに感動していると、草壁さんはいつも通り「いいから早く食え」と急かしてきた。目でもゆっくり楽しませてほしいのに……。