そう言うと、葵さんは一瞬目を丸くして、それから照れ臭そうに『そんなことないよ』とキャスケット帽のつばを下げた。
それから、なにか思い出すように、ぽそりとつぶやく。
「菜乃ちゃんみたいな子が、あのとき隣にいたらな」
「え、あのときって……?」
「菜乃ちゃん、もう気づいてると思うけど」
葵さんがそこまで言いかけたとき、ガラガラ声がうしろから聞こえてきた。
「ねぇ、お姉さんたち、これからどこで飲むの?」
くるっと振り返ると、そこには完全に酔っぱらっている、三十代前後の男性二人組がいた。
スーツはしわくちゃで、顔は赤く、息も酒臭い。
うわぁ、めんどくさい……。穏便に離れたい。
葵さんは、なにも言わずに私の手を繋いで、キャロットタワーに背を向けて歩き始める。
すると、すかさず彼らは葵さんの前を通せんぼして止めに入った。
「きれいなお姉さん、顔ちゃんと見せてよ……あれ?」
嫌な沈黙が流れる。葵さんはキャスケット帽の下から彼を睨んでいた。
面識があったのだろうか……?
ハラハラしながらも、止めに入ろうとしたが、それは葵さんの顔を覗いた彼の声によって遮られた。
「こいつ、男じゃん。たしか前ナンパしたときも騙されたわ」
「はー? お前の目、どうなってんの。しっかりしろよ」
え……?
彼らの言葉に一瞬驚き、固まっていると、葵さんは帽子を取ってにっこりとほほ笑んだ。
それから、さっきより野太い声でこう返した。
「ほんとしっかりしろよ。女の見抜き方だけじゃなく、お前らのクズみたいな人生含めしっかり見つめ直せば」
そう言い放った瞬間信号が青に代わり、葵さんに手を引かれるがままに、私たちは全力ダッシュした。
葵さんは楽しそうに笑っていて、私はついていけない展開の連続にただただ驚いていた。
迷路みたいな三角地帯を通り抜けて、なんとかふたりを撒くと、なんだか分からない笑いがこみあげてくる。
路地裏で、息を切らしながら座りこみ、私と葵さんは吹きだした。
「あはは、葵さん、口悪すぎ……」
「口の悪さは、爽君に教えてもらったの。あの人も毒舌でしょ」
「たしかに、そうですね、ハアハア……、久々に走った」
息を整えていると、葵さんが私の頭に手をポンと置こうとして、すぐに引っ込めた。
それから、なにか思い出すように、ぽそりとつぶやく。
「菜乃ちゃんみたいな子が、あのとき隣にいたらな」
「え、あのときって……?」
「菜乃ちゃん、もう気づいてると思うけど」
葵さんがそこまで言いかけたとき、ガラガラ声がうしろから聞こえてきた。
「ねぇ、お姉さんたち、これからどこで飲むの?」
くるっと振り返ると、そこには完全に酔っぱらっている、三十代前後の男性二人組がいた。
スーツはしわくちゃで、顔は赤く、息も酒臭い。
うわぁ、めんどくさい……。穏便に離れたい。
葵さんは、なにも言わずに私の手を繋いで、キャロットタワーに背を向けて歩き始める。
すると、すかさず彼らは葵さんの前を通せんぼして止めに入った。
「きれいなお姉さん、顔ちゃんと見せてよ……あれ?」
嫌な沈黙が流れる。葵さんはキャスケット帽の下から彼を睨んでいた。
面識があったのだろうか……?
ハラハラしながらも、止めに入ろうとしたが、それは葵さんの顔を覗いた彼の声によって遮られた。
「こいつ、男じゃん。たしか前ナンパしたときも騙されたわ」
「はー? お前の目、どうなってんの。しっかりしろよ」
え……?
彼らの言葉に一瞬驚き、固まっていると、葵さんは帽子を取ってにっこりとほほ笑んだ。
それから、さっきより野太い声でこう返した。
「ほんとしっかりしろよ。女の見抜き方だけじゃなく、お前らのクズみたいな人生含めしっかり見つめ直せば」
そう言い放った瞬間信号が青に代わり、葵さんに手を引かれるがままに、私たちは全力ダッシュした。
葵さんは楽しそうに笑っていて、私はついていけない展開の連続にただただ驚いていた。
迷路みたいな三角地帯を通り抜けて、なんとかふたりを撒くと、なんだか分からない笑いがこみあげてくる。
路地裏で、息を切らしながら座りこみ、私と葵さんは吹きだした。
「あはは、葵さん、口悪すぎ……」
「口の悪さは、爽君に教えてもらったの。あの人も毒舌でしょ」
「たしかに、そうですね、ハアハア……、久々に走った」
息を整えていると、葵さんが私の頭に手をポンと置こうとして、すぐに引っ込めた。