葵さんって、キラキラした笑顔が可愛かったり、今みたいにお姉さんぽかったり、さっきのようにかっこよく見えたり、色んな顔を持っているな。
 ただきれいなだけじゃなくて、コロコロ新しい顔を見せてくれる。
 そんな葵さんからしたら、草壁さんが能面に見えて当然だろう。
 葵さんにバレないように思い出し笑いをしながら歩いていくと、駅前の大型スーパーが見えてきた。
 二十四時間営業のスーパーには、どんな時間帯でも人が沢山いて、なぜか少し安心する。
 上京したばかりの頃は、こんな深夜でも私みたいに残業して、お総菜を買って帰るサラリーマンがいるんだと、涙が出そうになったものだ。
「あ、バター発見」
 地下の乳製品コーナーでバターを発見した葵さんが、また太陽みたいな笑顔を向けた。
「あと、歩きながらこれも飲んじゃお。爽君のおごりだし」
「ええ、いいんですかね……」
「いいのいいの」
 そう言って、葵さんは無邪気に缶チューハイを買い物かごに入れる。
 草壁さんに申し訳なく思いながらも、「おつかい代だよ」と葵さんに可愛く説得されてしまった。
 お酒とバターが入ったかごを持ってレジに向かいながら、葵さんは懐かしむように語りだす。
「上京したての頃、用もないのにこのスーパー来てたなあ。なんか人恋しくてさ」
「ええっ、今私もそんなこと思って、感慨深くなってました」
「本当に? あはは、地方出身者あるあるなのかな」
 セルフレジで数秒で会計を済ませて、私たちはスーパーをあとにした。
 お仕事があまりない時代は、世田谷線沿いの安いアパートに住んでいたという葵さん。
 酔っ払いサラリーマンたちに紛れて、スーパーから出てすぐにあるキャロットタワーの前で缶チューハイを開けて、乾杯する。
 ぬるい春の夜風が葵さんの髪を揺らす。
 目の前では、酔いつぶれた上司を駅に運ぶ若手社員や、街頭インタビューを受けている女子大生や、酒の勢いに任せてナンパをしているお兄さんがいる。
 スーパーから出てきたおじさんが、私たちと同じように缶チューハイを開けてグイッと飲んでいる姿を見て、思わずふたりで笑ってしまった。
「あはは、おんなじだ」
 葵さんの笑顔を見て、私はほろ酔い気分のまま、思わずつぶやいてしまう。
「葵さんって、色んな顔を持ってますね。今みたいに無邪気だったり、可愛かったり、かっこよかったり……素敵です」