なんだか色気のある子だなと思っていたから、強く印象に残っていたんだ。たしか名前は……榎本(エノモト)さんだ。
そんな榎本さんに暫し睨まれたままでいると、彼女は訝しげな表情のまま問いかけてきた。
「あなた、たしか営業部の花井さん……ですよね?」
「はい、営業部三年目の花井です」
「……あの、さっきの会話偶然トイレから聞こえてたんですけど、花井さんって、草壁さんと付き合ってるんですか?」
「え⁉︎ そんなまさか!」
「ですよね。じゃあ大丈夫です」
慌てて否定した一秒後、榎本さんは私のことを見向きもせずにカードキーをセンサーに当てて、中に入っていった。
あまりにも露骨な態度に、私は再びその場に立ち尽くしてしまう。
「な、なんだ……今のは……。なんだ今のは⁉︎」
社内一のエリートイケメンに近寄るとこんなに怖いことがあるのか。
少女漫画のような牽制をされたことで、私は榎本さんを恐れるより前に、改めて会社での草壁さんの評価の高さに圧倒されてしまった。
草壁さんに軽々しく会社で話しかけるのはやめておこう。
私は固く、胸に誓ったのだった。
◯
草壁さんと鉢合わせないようにこそこそとオフィスを出た私は、今日もあの店に向かっていた。
私が住んでいるアパートの最寄駅も三軒茶屋駅なので、少しお店を覗いてみて入りにくそうな雰囲気だったら素通りして帰ろう。それに、お客さんは隣のマンションの住人限定と言っていたし……。
しかし、三角地帯を抜けた住宅街の奥に、あんなに緑に囲まれたレストランがあるなんて、よく今まで知らずに暮らしていたものだ。
緑に囲まれて食べる料理は、今まで食べたどんな料理よりも新鮮で美味しく感じた。
またあのご飯が食べたい……。あの空間で癒されたい。
それに、草壁さんが本当の営業日は毎週金夜だけだと言っていた。
金曜である今日、どんなお客さんが来て賑わっているのか気になって仕方がない。
「えっと、たしかここら辺の角を曲がって……。あった!」
入り組んだ道を抜けた先に、緑に包まれた建物が遠くに見えた。
大きなマンションが隣にあるから、今までそっちに気を取られて気づいていなかったのだろうか。
どうやらまだ開店前のようで、明かりは灯っていない。
草壁さん、私より先に退社していたはずなのにな……。
そんな榎本さんに暫し睨まれたままでいると、彼女は訝しげな表情のまま問いかけてきた。
「あなた、たしか営業部の花井さん……ですよね?」
「はい、営業部三年目の花井です」
「……あの、さっきの会話偶然トイレから聞こえてたんですけど、花井さんって、草壁さんと付き合ってるんですか?」
「え⁉︎ そんなまさか!」
「ですよね。じゃあ大丈夫です」
慌てて否定した一秒後、榎本さんは私のことを見向きもせずにカードキーをセンサーに当てて、中に入っていった。
あまりにも露骨な態度に、私は再びその場に立ち尽くしてしまう。
「な、なんだ……今のは……。なんだ今のは⁉︎」
社内一のエリートイケメンに近寄るとこんなに怖いことがあるのか。
少女漫画のような牽制をされたことで、私は榎本さんを恐れるより前に、改めて会社での草壁さんの評価の高さに圧倒されてしまった。
草壁さんに軽々しく会社で話しかけるのはやめておこう。
私は固く、胸に誓ったのだった。
◯
草壁さんと鉢合わせないようにこそこそとオフィスを出た私は、今日もあの店に向かっていた。
私が住んでいるアパートの最寄駅も三軒茶屋駅なので、少しお店を覗いてみて入りにくそうな雰囲気だったら素通りして帰ろう。それに、お客さんは隣のマンションの住人限定と言っていたし……。
しかし、三角地帯を抜けた住宅街の奥に、あんなに緑に囲まれたレストランがあるなんて、よく今まで知らずに暮らしていたものだ。
緑に囲まれて食べる料理は、今まで食べたどんな料理よりも新鮮で美味しく感じた。
またあのご飯が食べたい……。あの空間で癒されたい。
それに、草壁さんが本当の営業日は毎週金夜だけだと言っていた。
金曜である今日、どんなお客さんが来て賑わっているのか気になって仕方がない。
「えっと、たしかここら辺の角を曲がって……。あった!」
入り組んだ道を抜けた先に、緑に包まれた建物が遠くに見えた。
大きなマンションが隣にあるから、今までそっちに気を取られて気づいていなかったのだろうか。
どうやらまだ開店前のようで、明かりは灯っていない。
草壁さん、私より先に退社していたはずなのにな……。