「わたくし、『夢の見初めし春の野の、風にそよげる花に似て、日の輝きに照り映えて、星と月とに彩られ、雨と土とに愛さるる、たおやかにして健やかなる、天女の見えざる翼にて、朝霧かかる国土をも、翔けて巡りて光り成し、天地時空をあまねく統べ、民の心を導きて、幸わうあしたをいざなう乙女』は、今日のよき日に汝を夫と迎えることを誓います」

 王位継承者における慣例に従って、ゆめさきが先に、誓いの言葉を口にした。向かい合って立つ彼が、次いで誓った。

「わたくし、『銀星名月冴ゆる冬天の雅なる群青』は、今日のよき日に汝を妻と迎えることを誓います」

 ゆめさきのヴェールをめくり上げるとき、ぎんが皇子と呼ばれる彼の手が少し震えているのが見えた。分厚いヴェールが取り払われたとき、会いたかった人こそがやはり皇子だったのだと、ゆめさきは知った。

「お姫さまは、恋する相手と結ばれるものなのよ」
 漆黒の瞳を見上げて微笑むと、切れ長な目尻を優しく緩め、彼もゆめさきに微笑み返した。
「選んでくれてありがとう。嬉しかった」
 薄い唇の端に治りかけの傷があることに、ゆめさきは、ふと気が付いた。

 新郎新婦のささやきは、多くの者の耳には聞こえなかった。婚礼の儀の進行を司る神父が目顔で二人をうかがいつつ、小さな咳払いをした。新郎新婦は従順にうなずいて、儀礼は次の場面へと移る。

 誓いのくちづけを交わす二人の姿は美しく、初々しく、喜びに満ちて、参列者たちの胸を熱くした。