ゆめさきたちがひよどり村に帰還したのは、昼を過ぎたころだった。
 ちょうど一日前に最初に村に入ってから、ごく短い間にたくさんのことが起こった。ゆめさきはくたびれ果て、食事も取らず、埃もろくに落とさずにベッドに潜り込んだ。

 空腹のあまり目が覚めたのは翌朝だった。ゆめさきはここに至ってようやく、自分がふぶきの祖父母の家に泊めてもらったことを知り、改めて老夫婦にお礼を言った。ふぶきも同じく祖父母の家にいて、すでに目を覚ましているらしい。

「きらぼしたちはどこ?」
 ゆめさきの問いに、老夫婦が答えた。きらぼし、もちづき、ちしおの三人は、村の診療所で経過を見ているという。

 きらぼしは眠りっぱなしだが、すでに無傷だった。もちづきは、疲労が取れれば問題ないと本人が告げたそうだ。ちしおは傷がもとで熱を出していたが、大事には至らないとの見立てだった。

 ふぶきの祖父母は、ゆめさきのために、たっぷりのお湯を沸かしてくれた。ゆめさきは埃と垢を洗い流し、ついでに、寝ぼけまなこのあらしも洗ってやった。
 風呂から上がると、こざっぱりした格好のふぶきが、祖父母を手伝って料理をテーブルに並べていた。ふぶきは、庭に建てた帳幕《ユルタ》を寝室代わりにしたという。

「お部屋を取っちゃってごめんね、ふぶき。ゆっくり眠れた?」
「十分です。ぼくはむしろ、ユルタで寝るほうが好きですしね。むらくも族はもともと旅先にユルタを建てて生活していましたから、ぼくの本能にもそれが刻み込まれているんでしょう」

 むらくも族のユルタは、木と山羊の腱から成る枠に、布と羊毛氈を張って作られる。小一時間もあれば建てたり畳んだりできるらしい。

「わたしもユルタに泊まってみたいわ。ふぶき、今夜は寝床を交換して」
「わざわざ今夜、交換しなくてもいいでしょう。竜の谷へ行って帰るには、おそらく二晩、ユルタで過ごすことになりますよ」

「あ、そうだったわね。わたしがあらしを拾った四歳のころは、もちろんユルタなんて持っていってなかったから、洞窟で寝たのよね」
「やめてくださいよ、姫。本当にもう、信じられない」

 素朴ながらも味わい深い料理にあり付きながら、ゆめさきが眠っている間に起こった出来事をかいつまんで聞いた。
 壊された家や工房の再建がほぼ完了したこと、すめらぎの亡骸を村の墓地に埋葬したこと、今回の戦いで死んだ者の魂の葬礼は追っておこなわれること。

 ふぶきは、三体の人形戦士の補修作業に追われていた。咄嗟の判断で袖を裂いた服も、自分の手で修繕中だ。

「もちづきさんに新しい仮面を作ってあげる約束もしました。きらぼしさんの刀もどうにかしないといけませんし、そういえば、姫も剣を失ったんでしたね。あれこれ調達しないといけないから、最低でも二日はほしいところです」
「二日くらいなら、わたしは大丈夫よ。袋銀竜が旅立つより前に竜の谷にたどり着けたらいいもの。婚礼まで二ヶ月近くあるんだから、それまでには王都に戻れるでしょ」