赤毛の少年が、死体兵士の作った穴から飛び出していくのが見えた。ゆめさきはあらしを下ろし、剣を抜いた。
きらぼしの呼吸が荒い。脂汗を流しているのがわかる。ゆめさきは唇を噛んだ。
「無理しすぎなんじゃないの、きらぼし?」
「あばらと内臓がイってる。痺れて痛覚がねぇんだ。さっさと終わらせねぇと、おれ、本気で死ぬよ」
「やめて、そんな」
「頭だけは冴えてんだ。体が軽くてさ。今なら何でもできる」
ふぶきが、ヒュッと勢いよく息を吐いた。
「さっさとやるならやりましょう。死体はぼくが引き受けます。姫ときらぼしさんで、あの巨大なのをどうにかできますか?」
「やってみるわ」
うなずいたゆめさきに、きらぼしが指示を出した。
「ゆめさきは、あいつらの目の前を飛んで霍乱しろ。おれは隙を突いて、やつらの胸の核をぶっ壊す」
「わかった」
ふぶきの人形戦士が、まず動いた。水晶《ボルール》と珊瑚《マルジャーン》が死体兵士の群れに突入し、縦横に剣を振るう。真珠《モルヴァリッド》はふぶきをかばう位置で、仲間の二体を援護する。
ゆめさきは飛び立った。人形戦士の顔の高さに浮かび、光彩のない目の注意を引く。二体の意思が連動しているのがわかった。一体がゆめさきに狙いを定めると、もう一体もついて来るのだ。
すめらぎの精神を搭載した一体は、動きがやや速い。ゆめさきは、きらぼしと目配せした。きらぼしが、遅いほうから倒す、と指差して告げる。
ゆめさきは剣を構え、振りかぶりながら、標的と定めた人形戦士に突撃した。緩慢な手をかわし、木彫りの目に剣を叩き付ける。
グラリと人形戦士の体が傾いた。その膝を踏み台に、きらぼしが跳ぶ。肩に取り付き、全身を振り子にして、人形戦士の胸を勢いよく蹴った。硬いものが破れる音がする。二度、三度と蹴る。
人形戦士が体を揺すり、きらぼしを振り落とそうとした。きらぼしがゆめさきを見る。ゆめさきは彼に手を差し伸べた。
きらぼしが跳び、ゆめさきの手にすがって宙を舞う。空中にて、数秒間。人形戦士がきらぼしをつかもうと、腕をまっすぐに伸ばした。
「今だッ!」
短く叫んで、きらぼしがゆめさきの手を離す。人形戦士の腕を駆け、鋭く跳び、ひび割れた胸郭に蹴りを突き込む。石の砕ける音がした。巨体は倒れながら、ただの木彫りの人形に戻っていく。
残る人形戦士は、あと一体。
着地したきらぼしは、すかさず身を翻し、無傷の人形戦士の踏み付け攻撃をかわした。巨大で端正な顔を振り仰ぎ、不敵に笑い、床に唾を吐く。いや、唾ではなく、少なからぬ量の血だった。
「我慢比べだぜ、すめらぎ。死にかけのおれとあんたと、どっちが長持ちするかな?」
ゆめさきは奥歯を噛みしめ、剣で太ももの皮膚を裂いた。痛みが走り、服に血がにじむ。体が一つ、軽くなる。
「きらぼしは死なせないわよ」
つぶやいて、ゆめさきは剣を構え直し、残る一体の人形戦士の顔をめがけて、つむじ風のように突っ込んでいく。
きらぼしの呼吸が荒い。脂汗を流しているのがわかる。ゆめさきは唇を噛んだ。
「無理しすぎなんじゃないの、きらぼし?」
「あばらと内臓がイってる。痺れて痛覚がねぇんだ。さっさと終わらせねぇと、おれ、本気で死ぬよ」
「やめて、そんな」
「頭だけは冴えてんだ。体が軽くてさ。今なら何でもできる」
ふぶきが、ヒュッと勢いよく息を吐いた。
「さっさとやるならやりましょう。死体はぼくが引き受けます。姫ときらぼしさんで、あの巨大なのをどうにかできますか?」
「やってみるわ」
うなずいたゆめさきに、きらぼしが指示を出した。
「ゆめさきは、あいつらの目の前を飛んで霍乱しろ。おれは隙を突いて、やつらの胸の核をぶっ壊す」
「わかった」
ふぶきの人形戦士が、まず動いた。水晶《ボルール》と珊瑚《マルジャーン》が死体兵士の群れに突入し、縦横に剣を振るう。真珠《モルヴァリッド》はふぶきをかばう位置で、仲間の二体を援護する。
ゆめさきは飛び立った。人形戦士の顔の高さに浮かび、光彩のない目の注意を引く。二体の意思が連動しているのがわかった。一体がゆめさきに狙いを定めると、もう一体もついて来るのだ。
すめらぎの精神を搭載した一体は、動きがやや速い。ゆめさきは、きらぼしと目配せした。きらぼしが、遅いほうから倒す、と指差して告げる。
ゆめさきは剣を構え、振りかぶりながら、標的と定めた人形戦士に突撃した。緩慢な手をかわし、木彫りの目に剣を叩き付ける。
グラリと人形戦士の体が傾いた。その膝を踏み台に、きらぼしが跳ぶ。肩に取り付き、全身を振り子にして、人形戦士の胸を勢いよく蹴った。硬いものが破れる音がする。二度、三度と蹴る。
人形戦士が体を揺すり、きらぼしを振り落とそうとした。きらぼしがゆめさきを見る。ゆめさきは彼に手を差し伸べた。
きらぼしが跳び、ゆめさきの手にすがって宙を舞う。空中にて、数秒間。人形戦士がきらぼしをつかもうと、腕をまっすぐに伸ばした。
「今だッ!」
短く叫んで、きらぼしがゆめさきの手を離す。人形戦士の腕を駆け、鋭く跳び、ひび割れた胸郭に蹴りを突き込む。石の砕ける音がした。巨体は倒れながら、ただの木彫りの人形に戻っていく。
残る人形戦士は、あと一体。
着地したきらぼしは、すかさず身を翻し、無傷の人形戦士の踏み付け攻撃をかわした。巨大で端正な顔を振り仰ぎ、不敵に笑い、床に唾を吐く。いや、唾ではなく、少なからぬ量の血だった。
「我慢比べだぜ、すめらぎ。死にかけのおれとあんたと、どっちが長持ちするかな?」
ゆめさきは奥歯を噛みしめ、剣で太ももの皮膚を裂いた。痛みが走り、服に血がにじむ。体が一つ、軽くなる。
「きらぼしは死なせないわよ」
つぶやいて、ゆめさきは剣を構え直し、残る一体の人形戦士の顔をめがけて、つむじ風のように突っ込んでいく。