調べてみると、F1マシンに乗り込むところまでたどり着くには、三種類のライセンスが必要だとわかった。
まず、普通の運転免許証。カートと呼ばれるマシンでのレースだけは免許証なしでいけるけれど、それ以外のクルマでレースに参戦するためには普通の運転免許証を持っていないといけない。
それと、国内向けのレースライセンス。クルマ好きの一般人でも、けっこう持っていたりするらしい。逆に言うと、国内向けのライセンスだけ持っていても、レーサーとして食べていくのは難しい。
だから、一人前のレーサーになるには国際レースライセンスが必要だ。レースの成績に応じてステップアップ試験を受けられる国際ライセンスで、最高ランクであるスペシャルライセンスを取得できて初めて、F1マシンに乗ることが許される。
「というわけで、三種類の免許証を取らなきゃいけなくて、何度も試験があるみたいだ」
「ふぅん。じゃあ、やっぱ、十八歳まで待たなきゃ、レーサーになるための修行とかができないってことか?」
「いや、レーシングカートっていうのは、免許なしでいけるみたいだ。カートのレースに子どものころから出場して腕を磨いてきたって人が、現役レーサーには多いらしい」
「えっ、何それ? おれでも出られるレースがあるってことか?」
「いきなりレースっていうのは無理だろ。まあ、でも、カートを運転することはできるんじゃないか? サーキットが近所にないか、とりあえず探してみよう」
「よっしゃ、何かワクワクしてきた! なあ、兄貴も一緒にサーキット行ってみようぜ。そんで、コースの上を走ってみるんだ。二人でレースしたら楽しそうだ!」
「バーカ。最初は練習だって言ってるだろ。あっ、ほら、このサーキットなら近いぞ。電車とバスを乗り継いだら、おれたちだけでも行ける場所だ」
「子ども向けの体験教室あるじゃん! 行くっきゃねぇよな!」
二人でパソコンの前で騒ぎながら、プラモート用じゃない本物のサーキットに思いを馳せて、親にも何も言わずに体験教室の申し込みをした。おれたちがあんまり騒ぐから様子を見に来た父親が、申し込み完了のメールを見て呆れて、同行してくれることになった。
たった一回の体験教室で、誰の目にも明らかな才能を発揮したのは、おれじゃなくてハルタだった。おれは「初めての割にはうまくできたね」と、大人から頭を撫でられる程度。ハルタは桁が違った。
予想できていたことだから、おれはショックを受けたりしなかった。ああ、やっぱりこいつが主人公なんだなと思った。
昔から年下のハルタのほうが足が速いし、うまく泳げる。鉄棒の大車輪も、バク転も、高いところから飛び降りながらの宙返りもできる。運動能力でハルタに追い付くのは、ちょっと器用に球技がこなせるだけのおれには、絶対に無理だ。
カート教室の授業料は高かった。それでも、ハルタは月に二回、サーキットに通うことになった。父親はおれも一緒に通うように勧めてくれたけれど、断った。レーサーになりたいという夢は、ハルタのものだ。おれが真似したって、どうしようもない。
危なっかしいばっかりの弟だと思っていたのに、譲れない夢を先に見付けたのはハルタのほうだった。取り残された気がした。おれとハルタは違うんだから、あせらなくていいさ。そう考えようとしても、何だかうまくいかなかった。
まず、普通の運転免許証。カートと呼ばれるマシンでのレースだけは免許証なしでいけるけれど、それ以外のクルマでレースに参戦するためには普通の運転免許証を持っていないといけない。
それと、国内向けのレースライセンス。クルマ好きの一般人でも、けっこう持っていたりするらしい。逆に言うと、国内向けのライセンスだけ持っていても、レーサーとして食べていくのは難しい。
だから、一人前のレーサーになるには国際レースライセンスが必要だ。レースの成績に応じてステップアップ試験を受けられる国際ライセンスで、最高ランクであるスペシャルライセンスを取得できて初めて、F1マシンに乗ることが許される。
「というわけで、三種類の免許証を取らなきゃいけなくて、何度も試験があるみたいだ」
「ふぅん。じゃあ、やっぱ、十八歳まで待たなきゃ、レーサーになるための修行とかができないってことか?」
「いや、レーシングカートっていうのは、免許なしでいけるみたいだ。カートのレースに子どものころから出場して腕を磨いてきたって人が、現役レーサーには多いらしい」
「えっ、何それ? おれでも出られるレースがあるってことか?」
「いきなりレースっていうのは無理だろ。まあ、でも、カートを運転することはできるんじゃないか? サーキットが近所にないか、とりあえず探してみよう」
「よっしゃ、何かワクワクしてきた! なあ、兄貴も一緒にサーキット行ってみようぜ。そんで、コースの上を走ってみるんだ。二人でレースしたら楽しそうだ!」
「バーカ。最初は練習だって言ってるだろ。あっ、ほら、このサーキットなら近いぞ。電車とバスを乗り継いだら、おれたちだけでも行ける場所だ」
「子ども向けの体験教室あるじゃん! 行くっきゃねぇよな!」
二人でパソコンの前で騒ぎながら、プラモート用じゃない本物のサーキットに思いを馳せて、親にも何も言わずに体験教室の申し込みをした。おれたちがあんまり騒ぐから様子を見に来た父親が、申し込み完了のメールを見て呆れて、同行してくれることになった。
たった一回の体験教室で、誰の目にも明らかな才能を発揮したのは、おれじゃなくてハルタだった。おれは「初めての割にはうまくできたね」と、大人から頭を撫でられる程度。ハルタは桁が違った。
予想できていたことだから、おれはショックを受けたりしなかった。ああ、やっぱりこいつが主人公なんだなと思った。
昔から年下のハルタのほうが足が速いし、うまく泳げる。鉄棒の大車輪も、バク転も、高いところから飛び降りながらの宙返りもできる。運動能力でハルタに追い付くのは、ちょっと器用に球技がこなせるだけのおれには、絶対に無理だ。
カート教室の授業料は高かった。それでも、ハルタは月に二回、サーキットに通うことになった。父親はおれも一緒に通うように勧めてくれたけれど、断った。レーサーになりたいという夢は、ハルタのものだ。おれが真似したって、どうしようもない。
危なっかしいばっかりの弟だと思っていたのに、譲れない夢を先に見付けたのはハルタのほうだった。取り残された気がした。おれとハルタは違うんだから、あせらなくていいさ。そう考えようとしても、何だかうまくいかなかった。