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竜也から「ごめんなさい」だらけのメールが届いた。ハッキリとは書いていなかったけれど、わたしが掲示板に書き込んだコメントを見たらしいと、文面から推測できた。
水曜日の夕方だった。わたしが唯一、午後をまるまる全部空けている曜日。ほかはビッシリと授業でコマを埋めているのだけれど。
普段なら、食べて吐いて食べて吐いてを繰り返しているころだ。でも、その日は何だか頭がふわふわする感じで、体はひどく重たくて、何もしたくなかった。カーペットの上に転がって、ぼんやりしながら、竜也に電話を掛けた。
竜也の慌てた声が聞こえた。
〈も、もしもし? 蒼さん、どうかしました?〉
どんな受け答えをしたんだったか。少しの間、一応まともな会話をしたことは何となく覚えている。その直後、急に、異様な状態が始まった。心臓の打つリズムがおかしくなって、何かすごくキモチワルイ大きなモノが背筋を這い上っていく感触があって。
わたしは、竜也がしゃべっているのをさえぎった。
「竜也」
名前を呼ぶ舌がもつれる。竜也が返事をしたみたいだけれど、言葉がわからなかった。
「竜也、来て。おかしい。頭が……」
背筋を這い上がってきたモノが頭に達して、脳みそごと、ぶわっと膨れ上がった。そんなふうな、猛烈にキモチワルイ感触。
手足の先から順に、体が痺れながら硬直していく。わたしはケータイを取り落とした。背筋がビシビシ音を立てながら、腰から首のほうへ向けて固まっていって、そして。
バチン! 頭の中で何かが弾ける音を聞いた。
悲鳴を上げたと思う。凄まじい頭痛に襲われた。痛みが拍動する。脳みそが熱暴走しながら膨れ上がって、今にも頭蓋骨を破裂させてしまいそうな、激痛と異物感。
視界にある光がひどい刺激になって、頭痛を増幅させる。自分の体の中の音が、鼓膜の内側で爆発的に鳴り響いている。吐き気がする。体じゅうの強烈な違和感に付いていけず、あまりにもキモチワルイから、胃がのたうっている。
とにかく頭がどうしようもなく痛くて、わたしは床の上で、もがいていた。痛みには波があった。耐えられないほどの大波に呑まれて、こんなに痛いならさっさと死にたいと思って、頭を抱えて体を丸めて、痛みが緩んで、また次の大波が来て。
たびたび気が遠くなりながら、玄関に這っていって、ドアの鍵を開けた。外に出ないと死んでしまう気がして、何かから逃れたくて必死だった。
玄関フロアと廊下とキッチンが一緒になった狭くて冷たい空間で、わたしはそのまま倒れていた。しばらく気を失っていたらしい。
「……さんっ、蒼さん! 蒼さん!」
呼ばれて、目が覚めた。拍動する激痛は、まだ頭の中に居座っている。
竜也がそこにいた。わたしの肩に手を掛けて、見たことのない切羽詰まった表情で。
わたしはきつく目をつぶった。まぶたの隙間から刺さってくる光が、頭痛を増幅させる。吐き気がする。いつの間にか手に握りしめていた台所用のタオルを口に当てて、こみ上げてきた胃液を吐いた。
竜也が何かを言って、それがまともな言葉だとはわかるのに、わたしはまともでない言葉を返してしまう。それをどこか離れた場所から見ている自分がいるような、異様な状態。そして、ひたすらに頭が痛い痛い痛い。
結局どんな受け答えを経てそうなったのかわからないけれど、気付いたら、わたしはタクシーで病院に向かっていた。竜也に支えられながら、途中のコンビニでもらったレジ袋の中に何度も吐いて、病院に着いてからはストレッチャーに乗せられた。
血液検査、尿検査、MRI検査、聴診、胃カメラ。その場でできるひととおりの検査をして、痛み止めと水分補給の点滴を打たれた。検査の結果は、胃が荒れていることのほかは、特に異常なし。
検査を受ける途中から、頭の激痛はだんだんと引いていった。痛みに備えて体にギュッと力を入れていたせいで、全身が疲れ果てていた。関節をあちこち傷めて、その痛みがじわじわとつらかった。
竜也から「ごめんなさい」だらけのメールが届いた。ハッキリとは書いていなかったけれど、わたしが掲示板に書き込んだコメントを見たらしいと、文面から推測できた。
水曜日の夕方だった。わたしが唯一、午後をまるまる全部空けている曜日。ほかはビッシリと授業でコマを埋めているのだけれど。
普段なら、食べて吐いて食べて吐いてを繰り返しているころだ。でも、その日は何だか頭がふわふわする感じで、体はひどく重たくて、何もしたくなかった。カーペットの上に転がって、ぼんやりしながら、竜也に電話を掛けた。
竜也の慌てた声が聞こえた。
〈も、もしもし? 蒼さん、どうかしました?〉
どんな受け答えをしたんだったか。少しの間、一応まともな会話をしたことは何となく覚えている。その直後、急に、異様な状態が始まった。心臓の打つリズムがおかしくなって、何かすごくキモチワルイ大きなモノが背筋を這い上っていく感触があって。
わたしは、竜也がしゃべっているのをさえぎった。
「竜也」
名前を呼ぶ舌がもつれる。竜也が返事をしたみたいだけれど、言葉がわからなかった。
「竜也、来て。おかしい。頭が……」
背筋を這い上がってきたモノが頭に達して、脳みそごと、ぶわっと膨れ上がった。そんなふうな、猛烈にキモチワルイ感触。
手足の先から順に、体が痺れながら硬直していく。わたしはケータイを取り落とした。背筋がビシビシ音を立てながら、腰から首のほうへ向けて固まっていって、そして。
バチン! 頭の中で何かが弾ける音を聞いた。
悲鳴を上げたと思う。凄まじい頭痛に襲われた。痛みが拍動する。脳みそが熱暴走しながら膨れ上がって、今にも頭蓋骨を破裂させてしまいそうな、激痛と異物感。
視界にある光がひどい刺激になって、頭痛を増幅させる。自分の体の中の音が、鼓膜の内側で爆発的に鳴り響いている。吐き気がする。体じゅうの強烈な違和感に付いていけず、あまりにもキモチワルイから、胃がのたうっている。
とにかく頭がどうしようもなく痛くて、わたしは床の上で、もがいていた。痛みには波があった。耐えられないほどの大波に呑まれて、こんなに痛いならさっさと死にたいと思って、頭を抱えて体を丸めて、痛みが緩んで、また次の大波が来て。
たびたび気が遠くなりながら、玄関に這っていって、ドアの鍵を開けた。外に出ないと死んでしまう気がして、何かから逃れたくて必死だった。
玄関フロアと廊下とキッチンが一緒になった狭くて冷たい空間で、わたしはそのまま倒れていた。しばらく気を失っていたらしい。
「……さんっ、蒼さん! 蒼さん!」
呼ばれて、目が覚めた。拍動する激痛は、まだ頭の中に居座っている。
竜也がそこにいた。わたしの肩に手を掛けて、見たことのない切羽詰まった表情で。
わたしはきつく目をつぶった。まぶたの隙間から刺さってくる光が、頭痛を増幅させる。吐き気がする。いつの間にか手に握りしめていた台所用のタオルを口に当てて、こみ上げてきた胃液を吐いた。
竜也が何かを言って、それがまともな言葉だとはわかるのに、わたしはまともでない言葉を返してしまう。それをどこか離れた場所から見ている自分がいるような、異様な状態。そして、ひたすらに頭が痛い痛い痛い。
結局どんな受け答えを経てそうなったのかわからないけれど、気付いたら、わたしはタクシーで病院に向かっていた。竜也に支えられながら、途中のコンビニでもらったレジ袋の中に何度も吐いて、病院に着いてからはストレッチャーに乗せられた。
血液検査、尿検査、MRI検査、聴診、胃カメラ。その場でできるひととおりの検査をして、痛み止めと水分補給の点滴を打たれた。検査の結果は、胃が荒れていることのほかは、特に異常なし。
検査を受ける途中から、頭の激痛はだんだんと引いていった。痛みに備えて体にギュッと力を入れていたせいで、全身が疲れ果てていた。関節をあちこち傷めて、その痛みがじわじわとつらかった。