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日曜日は教会に行った。最初は何のコンサートかと思ったくらい、教会で演奏されていたのはノリノリのゴスペルで、わたしが想像していたような堅苦しさは全くなかった。学校は休みだけれど、ホームステイの仲間のほとんど全員が、そのコンサートのようなミサに来ていた。
ミサのときは普段より少しきれいな格好をするようにという指示だったから、わたしは光沢のある生地のブラウスとズボンだった。この服は、ケリーには不評だった。
「スカートやドレスにすればいいのに」
わたしは苦笑いで辞退した。ドレスなんて、がらじゃないから。
竜也は、カッターシャツにネクタイに革靴で、ひどく大人びて見えた。わたしは似合うと思ったのだけれど、中学一年の女の子たちはいつにも増しておませで、竜也をさんざんからかって遊んでいた。
「カッコつけてるー! 似合わなーい!」
「はいはい、勝手に言ってろよ」
竜也は怒りもせず、女の子たちの大騒ぎを右に左にかわしていた。
冬が長くて厳しいミネソタでは、遊園地さえ屋内にあった。町が丸ごと一つ入っているかのように大きな大きなショッピングセンターがあって、その真ん中が遊園地になっていた。学校の課外授業で、一日かけてショッピングセンターと遊園地で遊んだ。
遊園地なんて、いつ以来だろう? そもそも観光のために外出するなんて、いつ以来だろう? 毎日私服で出掛けるなんて、いつ以来だろう? こんなに楽しいのなんて、いつ以来だろう?
週末を利用して、学校の休みも一日もらって、湖のそばへ家族でキャンプに行った。寝泊まりするのはテントではなくて、スティーブが誰かから借りてきた大きなキャンピングカー。
途中で昼食のために寄ったハンバーガーショップに、わたしは電子辞書を置き忘れてしまった。キャンプ場に着くころになってそれに気付いて慌てたけれど、マーガレットがすぐにハンバーガーショップに電話をして、電子辞書が無事にそこにあることを確認した。
「帰りの日のランチもそこに決定ね。悩む必要がなくなったわ」
マーガレットは冗談っぽく笑って言った。
到着した日は暖かかった。スティーブとマーガレットは、キャンピングカーのセッティングをする間に湖で遊んでおいで、とわたしたちに告げた。
わたしたちは湖で泳いだ。水は冷たかった。水底は砂だった。少し波があった。川と似た匂いがした。ゴーグルを付けて潜ったり、岸辺まで泳ぐ速さを競ったり、浮き輪を抱えて深いところに行ってみたり。
体が冷えてきて湖から上がるころには、髪がキシキシした。ケリーもちょうど同じタイミングで同じことを考えたらしい。
「シャンプーとコンディショナーが必要ね。今すぐ」
ケリーは膨れっ面になった。
夕食はバーベキューだった。ホットドック用のパンを肉の隣であぶって、ソースに漬け込んでおいた肉と玉ねぎが焼けたら、パンに挟んで食べる。
それから、インスタントのコンソメスープもあった。クルトンを浮かべて、乾燥ハーブを振って、キャンプ用のプラスチック製のカップでいただく。
夕方の薄闇がずっと続く湖畔は、どんどん気温が落ちていった。バーベキュー用の火は焚いたままで、それが暖かかった。
次の日は湖に船で出て、魚釣りをした。夜は釣った魚をソテーして、パスタに添えて食べた。
日が落ちると、その夜は本当に寒かった。わたしと竜也とケリーとブレットはコートを着込んで、キャンプ場の真ん中に焚かれた火のそばで、何を話すでもなく、でも何となく笑い合いながら過ごしていた。
「It's so cold」と震えたケリーが、不意に目をキラキラさせてわたしに尋ねた。
「日本語でこういうとき、何て言うの?」
「coldは、寒い。さ・む・い、だよ」
「サ・ム・イ、サムイ。よし、覚えた! そろそろキャンピングカーに帰らなきゃいけない時間よ。それでね、帰る途中で人とすれ違うと思うんだけど、そのときは英語をしゃべっちゃダメ。サムイって言って、アメリカ人じゃないふりをするの」
OK、と返事をする声が重なった。わたしたちは、ホットレモネードが空っぽになったカップをそれぞれ手に持って、キャンピングカーのほうへと歩き出した。
若いカップルとすれ違ったとき、予定どおり「サムイ」と言い合ってみた。すれ違う二人が不思議そうなく目をする。わたしたちは何食わぬ顔で歩いて、距離が開いてから、声を殺して笑った。たったそれだけの、いたずらとも呼べないことが、なぜだかひどく楽しかった。
日曜日は教会に行った。最初は何のコンサートかと思ったくらい、教会で演奏されていたのはノリノリのゴスペルで、わたしが想像していたような堅苦しさは全くなかった。学校は休みだけれど、ホームステイの仲間のほとんど全員が、そのコンサートのようなミサに来ていた。
ミサのときは普段より少しきれいな格好をするようにという指示だったから、わたしは光沢のある生地のブラウスとズボンだった。この服は、ケリーには不評だった。
「スカートやドレスにすればいいのに」
わたしは苦笑いで辞退した。ドレスなんて、がらじゃないから。
竜也は、カッターシャツにネクタイに革靴で、ひどく大人びて見えた。わたしは似合うと思ったのだけれど、中学一年の女の子たちはいつにも増しておませで、竜也をさんざんからかって遊んでいた。
「カッコつけてるー! 似合わなーい!」
「はいはい、勝手に言ってろよ」
竜也は怒りもせず、女の子たちの大騒ぎを右に左にかわしていた。
冬が長くて厳しいミネソタでは、遊園地さえ屋内にあった。町が丸ごと一つ入っているかのように大きな大きなショッピングセンターがあって、その真ん中が遊園地になっていた。学校の課外授業で、一日かけてショッピングセンターと遊園地で遊んだ。
遊園地なんて、いつ以来だろう? そもそも観光のために外出するなんて、いつ以来だろう? 毎日私服で出掛けるなんて、いつ以来だろう? こんなに楽しいのなんて、いつ以来だろう?
週末を利用して、学校の休みも一日もらって、湖のそばへ家族でキャンプに行った。寝泊まりするのはテントではなくて、スティーブが誰かから借りてきた大きなキャンピングカー。
途中で昼食のために寄ったハンバーガーショップに、わたしは電子辞書を置き忘れてしまった。キャンプ場に着くころになってそれに気付いて慌てたけれど、マーガレットがすぐにハンバーガーショップに電話をして、電子辞書が無事にそこにあることを確認した。
「帰りの日のランチもそこに決定ね。悩む必要がなくなったわ」
マーガレットは冗談っぽく笑って言った。
到着した日は暖かかった。スティーブとマーガレットは、キャンピングカーのセッティングをする間に湖で遊んでおいで、とわたしたちに告げた。
わたしたちは湖で泳いだ。水は冷たかった。水底は砂だった。少し波があった。川と似た匂いがした。ゴーグルを付けて潜ったり、岸辺まで泳ぐ速さを競ったり、浮き輪を抱えて深いところに行ってみたり。
体が冷えてきて湖から上がるころには、髪がキシキシした。ケリーもちょうど同じタイミングで同じことを考えたらしい。
「シャンプーとコンディショナーが必要ね。今すぐ」
ケリーは膨れっ面になった。
夕食はバーベキューだった。ホットドック用のパンを肉の隣であぶって、ソースに漬け込んでおいた肉と玉ねぎが焼けたら、パンに挟んで食べる。
それから、インスタントのコンソメスープもあった。クルトンを浮かべて、乾燥ハーブを振って、キャンプ用のプラスチック製のカップでいただく。
夕方の薄闇がずっと続く湖畔は、どんどん気温が落ちていった。バーベキュー用の火は焚いたままで、それが暖かかった。
次の日は湖に船で出て、魚釣りをした。夜は釣った魚をソテーして、パスタに添えて食べた。
日が落ちると、その夜は本当に寒かった。わたしと竜也とケリーとブレットはコートを着込んで、キャンプ場の真ん中に焚かれた火のそばで、何を話すでもなく、でも何となく笑い合いながら過ごしていた。
「It's so cold」と震えたケリーが、不意に目をキラキラさせてわたしに尋ねた。
「日本語でこういうとき、何て言うの?」
「coldは、寒い。さ・む・い、だよ」
「サ・ム・イ、サムイ。よし、覚えた! そろそろキャンピングカーに帰らなきゃいけない時間よ。それでね、帰る途中で人とすれ違うと思うんだけど、そのときは英語をしゃべっちゃダメ。サムイって言って、アメリカ人じゃないふりをするの」
OK、と返事をする声が重なった。わたしたちは、ホットレモネードが空っぽになったカップをそれぞれ手に持って、キャンピングカーのほうへと歩き出した。
若いカップルとすれ違ったとき、予定どおり「サムイ」と言い合ってみた。すれ違う二人が不思議そうなく目をする。わたしたちは何食わぬ顔で歩いて、距離が開いてから、声を殺して笑った。たったそれだけの、いたずらとも呼べないことが、なぜだかひどく楽しかった。