ややこしくて、思考放棄したいのは、私も一緒だった。
 私だって、お互いに好きで付き合うっていう、簡単な関係性でありたかった。

 でも、もう無理だと思うから。

「……もう一回聞くけど、いろんな複雑なことを無視して、ひなたはどうしたいの?」

 誰かを傷つけるとか、そういうことは考えない……
 私が、どうしたいか……

「好きな人に……天形に気持ちを伝えたい。叶うなら、天形とまた話せるようになりたい」

 言葉にしてみると、とても簡単なことだった。
 だけど、いくら簡単な願いでも、それが叶うなら苦労はしない。

 というか、忘れたいと思っていたはずなのに、こんなことを願っていることに、自分でも驚く。

「じゃあそれに向かって真っ直ぐ進んだら?」
「それだと聖が……」

 また同じようなことを繰り返そうとしたとき、沙奈ちゃんに両手で頬を挟まれた。

「両思いじゃなかったら、誰かを傷つけてしまうものだって、いい加減理解して。誰かを傷つける勇気がないなら、自分の願いは捨ててしまえ」

 沙奈ちゃんは言いすぎたと思ったのか、それ以上は言わず、自分の席に行ってしまった。

 沙奈ちゃんの言葉が、頭から離れない。

 誰かを傷つける勇気、覚悟。

 それが私にはなかったんだ。