沙奈ちゃんの言うアイツが誰のことかわからなくて、首を傾げる。

「矢野。アイツ、自分で利用しろって言ったのに、勝手に傷ついたんでしょ? それなのに、ひなたにそう思わせたなら、アイツが悪い」

 そう言い切る沙奈ちゃんに、なんて言えばいいのか思いつかなかった。
 私は、それを否定も肯定もできなかった。

「ひなたはどうしたいの?……なんて、わからなくなったから相談してきたんだろうけど」
「……誰も、傷つけたくない。心にできた傷は、簡単に消えないから……」

 でも、どの選択肢を選んでも、誰かを傷つけることになってしまう。
 それがとても苦しかった。

 私が答えのない問題を考えていたら、沙奈ちゃんはあくびを一つした。
 沙奈ちゃんが真剣に聞き、考えてくれていると思っていた私は、目を疑った。

 私の視線に気付いた沙奈ちゃんは、目を擦りながら苦笑する。

「……ごめん。ひなたの恋愛事情がややこしくなってて、ちょっと飽きちゃった」

 他人からすれば、それも無理ないか。
 でも、あれだけ親身になって相談にのってくれてたから、少し驚いた。

「私、お互いに好きで、付き合うっていう恋愛しかしてこなかったし。話を聞くことは出来ても、ひなたが望む答えは出せないよ」