「俺がひなたを想っているように、ひなたは……」

 その先は言えなかった。
 俺の口から言っていいことではなかった。

 天形は目を泳がせると、また視線を落とした。

「……なんだ、そういうことか。だから矢野は嫌いな俺に会いに来たんだな」

 俺は天形から目を背ける。

「矢野。俺、あの子にはっきり言うよ」

 思わぬ発言に、天形の顔を見る。
 それは、好きだと想いを告げるような顔には見えなかった。

「……いやいやいや。なんでそうなるんだよ」

 遠回しではあるが、ひなたがまだ天形を好きだと知ったはずなのに。
 間違いなく、両想いなのに。

 なのに、どうして嘘をついてまでひなたを傷つけようとする……?

「思いっきり傷ついたとき、そばにいるやつを好きになるって言うだろ」

 それはつまり、俺のためだということだろう。

「それだと、天形の気持ちは……」
「気にすんな。曖昧にしてた俺が悪いんだし」

 そうだとしても、無視してもいいことではない。

「だから、俺の気持ちは殺すよ。たとえそれがあの子を傷つけることになっても、あの子の幸せになるなら、いくらでも殺してやる」

 物騒な言い方だった。
 でも、まったく迷いがないように見えた。

 天形のくせに、かっこいいこと言いやがって。