天形はブロック塀に体を預け、視線を落とす。

「……好きなだけじゃ、ダメなんだ」

 こっちが苦しくなってしまうくらい、泣きそうな声だ。

 だが、天形はダメだった、とは言わなかった。
 つまり。

「まだ……ひなたのこと、好きなんだな」

 天形は切なそうに微笑んだだけで、何も言わない。
 その無言は肯定ということなのだろう。

「……それなのに、彼女がいるんだな」

 天形に対して誠実さは求めないが、このままではひなたが可哀想だと思った。

 天形はキョトンとしたような顔で俺を見てくる。

「俺、泉が彼女って言ったっけ」
「でも、あのときデートの邪魔するなって」
「泉が勝手に言っただけ」

 たしかに、天形は一言も言ってなかったような気がする。
 じゃあ、あの子がそのつもりで天形といたということか。

「……天形が一方的に好かれている……だと……?」
「矢野の中で俺の評価はどれだけ低いんだよ」
「少なくとも、ひなたを傷つける最低ヤローってことになってる」

 実際に傷つけているわけだし、あながち間違ってないと思うけど。

 天形は俺を嘲笑するかのように笑みを浮かべた。

「どこまでもあの子中心なんだな。それだけ想われてたら、あの子も幸せだろうな」