「ひなたのことで話があって来たんだよ」

 ひなたの名前を出したからか、天形の表情が固まった。

「ねえねえ、ひなたって誰?」

 だけど、彼女は空気を読まずに天形に質問した。

「……泉、ちょっと黙ってて」

 天形の一言で、泉さんは怯えたような表情を見せると、そのままどこかに逃げてしまった。
 だけど、天形はまったく気に留めていないようだ。

「単刀直入に聞く。天形はひなたのことをどう思ってる」

 天形はただ俺を睨むだけで、何も言わない。
 何も言わないということは、少なからず気持ちが残っているということにならないだろうか。

 お前が何も言わないのなら。

「ひなたに関わるのはやめてくれないか。ひなたは俺の彼女なんだ」

 嘘は言っていない。

 天形は言葉が出ないようだった。
 だが、次には納得したかのような、小さな笑みを浮かべた。

「悪かったよ。でもそうか……」

 なんだかわからないが、その笑みの中に優しさのような、ぬくもりのようなものを感じた。
 相手はあの天形なのに。

「……よかった……」

 それは思わず口から出た、というやつだった。
 自分で気付いた天形は、俺から顔を背ける。

 ……よかった、だと?