やっぱり無理をさせていたんだと、悔やむ。

「矢野君がいいって言ってたから背中を押したんだけど……怒る？」

　俯いていた俺の顔を覗き込んできた。

　さっき中途半端な気持ちで付き合うのはどうのこうの言ってたとは思えないな。

「いや、怒る相手は近江じゃないよ」

　近江はそのまま俺の隣に座る。

　それに、話を聞く限り近江はただアドバイスをしただけで、決めたのはひなただ。
　怒るのは筋違い。

「……この場合俺自身だろ」
「それもまた違うと思うけどね」

　近江の言おうとすることがわからなくて、素直に首を傾げる。

「たしかに矢野君がしたことは間違ってたかもしれない。でも、そうさせたのは誰？」
「……近江って意外と腹黒いんだな」

　俺の言い方が悪かったのか、近江は顔を顰めた。

「じゃあ聞くけど、矢野君はどうしたいの？　ひなたちゃんに変なこと言って、後悔してるみたいだけど」

　悩みまで話してないのに、どうしてそう言いきれるのかと不思議に思った。

　だけど、相手が何を思っているのかを鋭く察することができる近江の、特技的なことなのかもしれないと思うと、腑に落ちる。

「ひなたに、笑顔でいてほしいのは当然として……天形のことは忘れてほしい。俺だけを見てほしい」