あまりにサラッと言われたから、流しかけた。

「ひなたって……」

 俺は振り向いて近江を見上げるけど、近江は不思議そうな表情を浮かべる。

「自分だけがひなたちゃんを好きだと思ってた?」

 そこまで言ってないけど、そんな素振りがなかったから、驚いた。

「入学してからすぐ、僕はたくさんの人に囲まれてた。ある日の昼休み、演技するのに疲れて、ここで休んでたんだ。そしたら、ひなたちゃんは僕に大丈夫?って声をかけてくれた」

 きっかけを聞くけど、正直そんなことで?と思ってしまう。

 それが伝わったのか、近江は小さく笑った。

「それが嬉しかったんだ。本当に僕のことを心配してくれてたから。まあ、そのときはいい子だな、くらいにしか思ってなかったんだけど……気付けば彼女を目で追うようになってた」

 そう話す近江の表情はものすごく柔らかくて、男の俺でも思わずときめいてしまった。

「まあ、すぐに諦めたけどね」
「なんで?」

 すると、さっきの優しそうな瞳はどこに行ったというレベルで、近江は俺を睨んできた。

「君がいたからだよ」

 そこまでべったりとひなたのそばにいたつもりはないが、周りから見れば、というやつだろう。

「……ごめん」