「たとえば、お母さんにいい子にしててねって言われたのに悪いことしちゃったら、嘘をついていい子を演じる。新しい環境に慣れるまで、本当の自分を隠すこともある」

 言っている意味がわからないというような顔をしているけど、気にせず話し続ける。

「演じることって、そこまで悪いことじゃないと思うんだ。演じてるからって、空っぽなわけじゃない。だけど……たまには息抜きに誰かの前で本心さらけ出してもいいんじゃないかな」

 何様だと思われるかもしれないけど、近江君を安心させるために、優しく微笑んだ。
 近江君はまた顔を背けてしまった。

「……ひなたちゃんは? 自分を隠したりする?」
「え、私?」

 予想外の質問に、戸惑ってしまった。
 視線だけは私のほうに向いていて、まるで答えを求める子供のようだった。
 そんな近江君を見て、答えないという選択肢はなかった。

「んー……誤解を招くような言い方しかできないけど……私、仲がいい人以外からの評価って、割とどうでもいいんだ」
「他人の目を気にしないってこと?」
「まあ、そういうことになるかな。だって、すべての人と仲良くなんてできないもん。合う人と合わない人がいるのは当たり前でしょ?」

 苦笑いするしかなかった。
 近江君は唖然としている。