「スマホに何かあるの?」
「あのねー?」
「ちょ、有川! まじでやめて」

 沙奈ちゃんが言おうとするのを、聖が遮った。
 慌てて止めに入った聖を見て、沙奈ちゃんはお腹を抱えて笑う。

 本当、本性を隠さなくなってから、沙奈ちゃんはずっと楽しそうで、私まで笑顔になってしまう。

 そのまま三人でお昼を食べていたら、廊下が騒がしくなった。

「毎度毎度これだけ騒げる女子、尊敬する。よく見ればそんなにかっこよくないし。ね、ひなた」

 沙奈ちゃんは食べ終えたパンの袋を結びながら、私に同意を求めてきた。
 肯定も否定もしにくい……

「みんなかっこいい人に憧れがあるんじゃないかな。でも、あそこまでいくとアイドルみたい」
「というと?」
「本当に好きだったら、あんな簡単に表に出せないと思うんだ。私だけかもしれないけど……でも、なんか……」

 言いたいことがまとまらなくて、言葉を濁してしまった。

「まあ、ひなたの意見は一理あるか。近江がアイドル、ねえ」

 沙奈ちゃんはどこか納得していないように見えた。
 だけど、こればっかりは個人の見解に過ぎないから、納得できないのも無理ないと思う。

「ひなたちゃん」

 沙奈ちゃんとの会話、というか、どう返すかに集中しすぎて、近江君が教室に入っていることに気付かなかった。