天形を追い詰めながら、少し思った。

 私、なんで彼女みたいなこと言って、ヤキモチ妬いてるんだろう。
 こんなことがしたかったんだっけ。

「泉は……呼んでほしいって言われたから……」
「だったら、私の名前も呼んでよ……」

 面倒なこと、わがままを言っていることは自覚している。
 でも、付き合えなくてもいいから、名前くらいはって思った。

「……ごめん。呼べない」

 一瞬我を忘れ、私は天形の胸ぐらを掴んだ。
 だけどすぐ離し、天形の胸を軽く叩いた。

「なんで……友達、でしょ……?」

 涙を堪えた声は、震えていた。
 天形はそっと私の拳に触れる。

「俺にとっては、友達じゃない。ずっと、手の届かない人だから」

 天形を突き飛ばすと、少しよろけた天形は近くにあった机にぶつかった。

「私は……! そんなに大切にされるような人間じゃ、ない! 天形が思ってるほど、いい子じゃない! お願いだから……勝手に壁を作らないでよ……私たち、対等だよ……」

 こぼれ落ちる涙を拭う。

 告白をしたわけじゃないのに、どこかスッキリしたような気分だ。
 告白よりも、何よりも言いたいことはこれだったのかもしれない。

「対等じゃないよ。君がそう思っていても、俺がそう思いたくても、周りはそう見てくれないんだ」