「……ごめん、困らせたいわけじゃないんだ。いや、こんなこと言われて困らないわけないか……」

 近江君はらしくもなく、髪をかき乱した。

「矢野君が当たって砕けてくれたら……諦められるんじゃないかって、思ったんだ」

 言葉が出ない。
 それって、つまり……

「近江君……やっぱり……?」

 こんなことを自分から言うなんて、ものすごく恥ずかしい。

 近江君は泣きそうに笑う。

「ブレーキをかけていたつもりなんだ。でも、関われば関わるほど、それは効かなかった。僕は……ひなたちゃんの一途で自分の考えを持っているところに惹かれていった」

 胸が締め付けられる。
 何か言わなきゃと焦って、ますます言葉につまる。

「ご、めん……なさ、い……」

 絞り出したような声、言葉。
 こんなふうにこんなことを言うつもりじゃなかったのに、これ以外出てこない。

 こんな私を好きだと言ってくれる近江君も、聖も傷つけてしまったんだ。

 どうして気持ちは思い通りにならないんだろう。

 近江君と聖のほうが素敵な人だと、私を大切にしてくれると頭ではわかっているのに、結局私は天形に戻ってしまうんだ。

 どれだけ天形に苦しめられても、傷つけられても、やっぱり……

「ひなたちゃん。わかってるから、そんなに苦しそうにしないで? 僕が矢野さんに殺される」