耳を疑った。
 聖がそんなことを言っていたことに驚いた。

 というか、それ以前に私が聞いちゃいけなかったような気がする。

「ひなたを悩ませて、苦しめて。絶対許さない」

 夏希のその声には憎しみがこもっていた。

「矢野さんは家族以上にひなたちゃんのことが大切なんだね」

 近江君のその返しに、私は変な悩みも消えて嬉しくなった。
 私は夏希に抱き着いた。

「ひ、ひなた……?」
「私も夏希が大好き」

 ここまで無条件に私のことを大切に思ってくれる夏希を、絶対に失いたくないと思った。
 それを、大好きだという言葉だけで済ませていいのか。

 言葉って難しい。

「ひなたちゃんは、矢野さんには素直になれるんだね」

 近江君に言われて妙に恥ずかしくなって、夏希の肩に顔をうずめる。

「それにしても、聖のやつ。なんでこんなに可愛いひなたを手放すようなこと、したんだろう。あんだけ狂っておきながら、たった数日で……」
「ああ、それね。矢野君は負けたって思ったんだって」

 近江君の言っている意味が分からなくて、私はとりあえず夏希から離れる。

「負けたって、誰に?」
「そりゃあもちろん、天形君」

 爽やかな笑顔に対して、顔を見合わせて固まる私たち。

「あのバカが……」
「天形に……?」

 ますます意味が分からない。