沙奈ちゃんは、当然の理由で怒っていた。
 これはただ近江君のことが嫌いだから文句を言っていたわけではなかったらしい。

「……ごめん。でも」
「でもじゃない。女に囲まれたからって言うなら、断ればよかったじゃん。冬花ちゃんを一人にしていい理由にはならないからね。本当、誰にでもいい顔するんだから」

 沙奈ちゃんの言っていることは正しいけど、最後の一言は完全に悪口だった。
 冬花ちゃんは近江君から離れ、沙奈ちゃんのところに行った。

「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのこと嫌い……?」

 沙奈ちゃんを見上げ、首を傾げた。
 沙奈ちゃんは流れるように冬花ちゃんを抱きしめる。

 だけど、好きとも嫌いとも言わない。
 嫌いだと言いたいんだろうけど、冬花ちゃんの前だから言えないんだと思う。

「可愛い……癒される……この子、本当に近江の妹? 性格違いすぎ」

 近江君といると、口を開くたびに悪口を言わなければ気が済まないのか、と思ってしまうくらい、自然に悪口を言っていく。

「えー、嵐士君そんなにダメ? かっこいいじゃん」
「見た目だけだし」

 あれだけ意気投合していた二人の意見が完全に真逆だ。
 話題になっている近江君は気まずそうに苦笑している。

「お兄ちゃんはかっこよくて、優しいの!」