「うわ、校庭の砂、全然なくなってるんだな」
 スニーカーで地面をつついてみせる良一に、明日実はちょっと笑って応えた。
「ここの砂、もともと海風で飛ばされやすかったたい? 特に冬場とか、季節風で。校庭の端に吹き飛ばされた砂ば集めて、台車で運んで埋め戻したりしよったもんね。良ちゃんも覚えちょっやろ?」

「そうだったね。体育館の掃除も、冬の風物詩だったな。体育館は隙間だらけだったから、冬の季節風が吹き荒れると、フロアじゅうが真っ白に汚れて」
「うんうん。朝、学校に着いたら、授業の前に大掃除ですっち言われて。掃除なんて面倒くさかはずとに、なぜか楽しくてね」

「全校児童、たった七人で、本格的に汚れた体育館の掃除をしてたんだ。体力勝負だったよね。まずはボロのモップで拭いて、それから雑巾できれいにして。雑巾がけで競走してたよな。あのころは、四人の中でおれがいちばん遅かったっけ」

「今はね、砂がどんなに吹き飛ばされても、校庭の埋め戻しばしよらんけん、グラウンド、ととっぱげたままになっちょっと」

 明日実の何気ない一言に、良一が噴き出した。
「ととっぱげた、か。なつかしい。すごい久々に聞いた」
「え、標準語やったら、何て言うっけ?」
「はげた、でいいんじゃない?」

 和弘が横から口を挟む。
「つるっぱげぐらいのリズム感があるっち思う」
 あはは、と声を上げて三人が笑う。あたしはカメラを手に、黙ってついて行く。

 サッカーゴールが置かれていた跡には、くぼみが残っていた。鉄棒の跡も登り棒の跡も、ちゃんとわかる。二百メートルトラックの、体育館にいちばん近いコーナーがくぼんでいるのもそのままだ。あのくぼみ、水たまりがなかなか引かなかったんだよね。

 でも、やっぱり、地面に横たわったいくつかのくぼみだけだ。残されているものは。
 地上にのびのびとあったはずのものたちは、どんなに目を凝らしても、何ひとつ残されていない。土止めに使われていたコンクリートブロックさえなくなっているから、花壇や庭園の形がぐしゃぐしゃになっている。

 以前は校庭の隅の温度計の箱のそばにあったはずの、ヤクスギのやっくんとカヤノキのかやちゃんは、もう姿が見えない。明日実が二年生、和弘が一年生のころ、真節小の五十周年を記念して、大木に育つヤクスギとカヤノキを植樹したそうだ。

 この場所から未来が消えたんだなって感じた。やっくんとかやちゃんは、大きく大きく伸びていくはずだったのに、ここにあった学校が終わってしまったのと同時に、未来に続くべき歴史を、根っこから抜き取られてしまった。