「ねえ、結羽」

 良一があたしを呼んだ。そのイントネーションが、昔とは違う。「ゆ」が高くて「う」で下がる。それは標準語のイントネーションだ。島の言葉なら「う」が高くなる。

「結羽、最近は何ばしよっと? 部活とか入っちょらんと?」

 昔のイントネーションで「結羽」と呼べないくせに、言葉尻だけは方言のふりをする。良一の話し方に、あたしはそろそろ限界だ。

「無理して方言しゃべるの、やめなよ。わざとらしい」

 ヒュッと、良一が息を吸い込んだ。吐き出されたのは、疲れたような笑いだった。

「やっぱり無理があったかな」
「音程が外れてるみたいに感じる。自分でもわかってんでしょ?」
「ごめん。でも、相変わらず、結羽は完璧な標準語をしゃべるね。本土だって、なまりはあるんだろ?」

 良一の言葉が、やっと、なめらかに耳に入るようになった。あたしは横目で良一を見た。

「あるよ。でも、それには染まらない。あたしは、音感はいいつもりだし、国語も得意。話す言葉はコントロールできる。標準語でいるほうが、どこにでも行ける」
「それ、昔も言ってたよな。すごいなって思った」
「別に、あたしにとっては普通」

 大ざっぱに「島の方言」とひとくくりにしても、別の島に行けば、イントネーションが違う。語彙が違うこともある。
 例えば、遊びのチーム分けをするための「うらおもて」は、島ごとに、まるで違った。

「うーららおーもーて」
「うーらおーもてっ」
「白黒じゃんけんぽん」
「てんがらわいの、わし」

 一つの島に染まれば、次の島に渡ったときに困る。幼いころにそれを感じ取って、以来、あたしは標準語で話している。あたしはどの土地にも染まらない。
 良一が改めてあたしに質問した。

「結羽は部活とかしてないの? ギターは趣味?」
「部活はしてない。塾も行ってないし、ピアノも再開しなかった。ギターは、趣味なんかじゃない。もっと本気でやってる」
「ごめんごめん。ギター、続けてたんだよな。聴けるの、嬉しいよ。なつかしくて。もちろん、すごいうまくなってるけど」

 ギターは五年生のころ、担任の先生に教わった。
 真節小の音楽室に、古いけれど上等なギターがあって、小近島を挙げての学習発表会の合奏で、あたしがギターを弾くことになった。良一や明日実じゃなく、あたしがギターを任されたのは、手の大きさのためだった。当時、あたしがいちばん体が大きかった。