翌日。

晩にみんなでテントまで運んで寝かせた向井さんは、なんとか起きて水を少しだけ飲んだ。

食欲がわかないらしい。

出せるものは全部出してしまったはずなのに、お腹ぺこぺこのはずなのに。

食べるのが大好きなはずなのに。


昨日の昼間も痩せたなぁと思ってたけど、今朝の向井さんはもうガイコツみたいにげっそりしていた。

当然、まともな速度で歩けるはずがなくて、あたしたちはふたりで歩いていた頃よりも多く休憩をいれながら、ゆっくりと進んだ。


「向井、川だぞ。いけるか?」
「行けるか、って、そりゃぁ、行くっす。死にたくねえすから」
「少し増水してるな。流れも速い」
「水が引くまで待づか?」
「…今より増す可能性も否定できん上に食糧に限りがあることを考えると、様子を見ている時間はないだろう」
「俺もそう思うぜ」


ゴクリ。

これまで何度か河越えをしてきたけど、いままでより水嵩が増してて流れも速い。

幅が数mの、そんなに大きくない川。

あたしと昇さん、ふたりの頃にいくつかこういうところを渡った。

でもそのときはこんなじゃなかった。

きっとここも普段ならジャブジャブ歩いて渡れる川だと思う。


だけど…

木の葉や枝、折れた木に流されたらしき建物の欠片…そんなのがザアザア、ゴウゴウと音を立てて目の前を流れていってる。


「なんだ生男、脱がねえと流されっぞ」
「えっ」


川の荒れように目を奪われていたら、阿久津さんにツッコミをいれられてしまった。

しまった、というような顔の昇さんと目が合う。

そうだ。

河越えのとき、昇さんは褌一丁で荷物を頭に担ぎ上げてた。

目のやり場に困るけど、それが普通の渡り方。

あたしは昇さんの前で脱ぐなんてできないから、軍服は脱いでロンTとハーフパンツで渡ってた。

今はみんながいるから、アメリカ国旗プリントのロンTなんか見せられない。

もちろん褌一丁も無理。

そもそも褌じゃないし。


「ああ、こいつはこのままでいいんだ」
「なんでよ?」


昇さんが言ってくれたけど、阿久津さんは納得してない。

山根さんも向井さんも脱ぎだして、あたしを不思議そうにみてる。


ふう、と昇さんが大きく息を吐いた。


「こいつらにはもうきちんと話しておかないか」
「昇さん…」
「ああん?何の話だべ」
「…わかった」


こいつらなら大丈夫、昇さんの目がそんな風に言っているように見えて、あたしは小さく頷いた。