「……私、誰かと深く関わりあうことことが苦手で、それでも変わらなきゃって……でも、行動しようとすると、焦って言葉が出てこなくなるんです。そんな自分が嫌になったとき、ここに来るようにしてるんです」


紫乃は膝の上に置いていた手元を見つめる。


「夢でこの景色を見たとき、懐かしく思ったんです。来たことはないはずなのに。ここに来ると、心が温まる」


両手を胸元に移動させた。表情が緩む。頼は紫乃から目が離せない。


「それと、私には魔法の言葉があるんです」


 紫乃の横顔を見つめていた頼と、目が合う。関わりあうことが苦手だと言ったばかりなのに、紫乃は頼から目を逸らさない。それどころか、柔らかく微笑んだ。


「好き」


 囁くように出て来た言葉に、頼は頬を赤らめる。


「いつ、どんなとき、誰に言われたのかは忘れてしまったんですが……とても大切な人に言われたことだけは覚えているんです」


 頼は言葉を飲み込んだ。確証はないが、紫乃が大切にしている言葉は自分が言ったものだと思ったからだ。


 しかしそれを言ってしまうと、さっき誤魔化した意味がない。そして、一番を恐れている状況を作り出してしまうような気がした。


「誰かに好きと言ってもらえた。それだけで、私は存在していてもいいんだと思えるんです」